2014 年9 月24 日(水)東京都千代田区平河町ビル・カンファレンスルーム3B で行われた設立準備会の設立集会の報告です。

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20140924_「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」設立準備会

 

■開会挨拶

「TPPは私たちの平和的生存権、知る権利を侵害する」

山田正彦(幹事長/元農林水産大臣)

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「今、ワシントンで、フロマン米通商代表部(USTR)代表と甘利明TPP担当相の会談が行われています。しかしそれ以前にフロマンは、農産物に関することだと思いますが、日米の関税交渉の内容を10月中には明らかにすると『Inside US Trade』誌が報道しています。各国がそのように報じているのに、日本の新聞は一行だに報道しようとしません。

日米の関税交渉を加盟国に明らかにするということは、本当はすでに、日米の間で関税交渉が決まっているのではないか。それを各国に10月中に明らかにするということ。11月に米国の中間選挙が終われば、一気呵成にTPP基本合意を取り付けるのが日米の腹ではないか、と思えてなりません。

もしそうなれば、具体的に私たちの平和的生存権、知る権利が侵害されることになる。そう考えて、5月から13人の弁護士の先生方と勉強会を続けてきました。8月にはみんなで合宿をしまして、訴訟をやろうじゃないかということになりました。今日はいよいよ『TPP交渉差止・違憲訴訟の会』設立準備会を立ち上げます」

 

■発起人挨拶

「不安や不利益、権利侵害を感じる原告の生の声を司法に訴える」

池住義憲(副代表/立教大学教授)

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「私たちは自衛隊イラク派兵違憲訴訟を起こし、4年2ヶ月の法廷闘争を行いました。その結果、2008年4月17日に名古屋高裁は、画期的な憲法判断に踏み込んだ判決を出しました。『航空自衛隊が行っている活動は、他国の武力の行使と一体化した行動であり、武力の行使を禁止したイラク特措法2条2項、ならびに憲法9条1項に違反する』という画期的な判決でした。

その後、名古屋高裁は平和的生存権に関してさらに大きな判決を下しました。『政府によってまだ戦争の行為が行われていなくても、戦争が行われる恐れ、もしくは武力行使が行われる恐れがあり、それによって不安や不利益、苦痛を感じた場合、そうした苦痛を救済するために、司法府に訴える場合がある』という道を拓いてくれたのです。

TPPに関しても同じことが言える可能性があります。まだ協定は署名されず、実行にも移されていませんが、すでに交渉が進められています。それによって何が生じるかは、火を見るよりも明らかです。多くの人々の権利侵害と不利益が生ずる恐れがある、これは間違いありません。今から不利益を感じ、不安を抱いている方が多くいるのではないか。そうであれば、名古屋高裁の判決を参考とし、不利益の元凶であるTPP交渉そのものをストップさせるという声を上げることは大事だと考えます。

私がこの訴訟に関わることを決めた理由は二つあります。TPPは様々な違憲、違法な内容を含んでいます。日本国内の農山漁村、都市スラム、離島の方々に、大きな不利益、権利侵害、生活不安が生じることは明らかで、これを何とか阻止できないか、というのが一つです。

もう一つは、海外のNGOの視点から捉え直すなかで分かったことです。TPPは日米が中心となって進めることで、それ以外のアジア太平洋にある途上国の農山漁村、都市スラムの人々の権利を奪うものだということです。日本はTPPによって、途上国の人々の権利を奪うことの加害者にさせられてしまうのです。

日本国憲法の前文に書いてある平和的生存権は、全世界の人々が恐怖と欠乏から免れて平和のうちに生きる権利を持っていることを、私たち主権者が60数年前に確認しました。世界でもっとも素晴らしい憲法であります。

自衛隊イラク派兵違憲訴訟のスローガンは、『強いられたくない加害者としての立場を』でした。そして私の精神的苦痛と権利侵害を、4年2ヶ月に渡って多くの仲間と一緒に語って訴えました。

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TPPもその意味では、私たちはいやおうなしに『加害者』にさせられてしまいます。国内にあっては『被害者』ですが、途上国の人たちに対しては『加害者』になる側面も生じる、という視点も重要です。38年間、海外のNGOで活動した者として、そうした視点も持って取り組んでいきたいと思うようになりました。

裁判はプロパガンダ=政治運動として用いるというのは本道ではありません。本当に不利益、権利侵害、苦痛を感じている、このままでは大変なんだ、という原告の生の声をどれだけ集められるか。全てはそこにかかっています。

①原告の生の声を、直接行動主義に基づいて法廷で『弁論』する。
②それを弁護団や憲法学者・国際学者・経済学者の共同の力で作り上げる『理論』で固めていく。
③これに加え、街角でTPPの内容を知らせる、伝える、つまり『世論』が必要です。

自衛隊イラク派兵違憲訴訟でも、『弁論』『理論』『世論』――この3つの『論』を大切に、裁判運動として呼びかけてきました。

今回、TPPに関して『訴訟の会』としたのは、裁判を起こすだけでなく、それを多くの人に広めて、問題点を世論に訴え続けていく裁判運動という形で展開していかなければならないという思いからです。被害者をなくし、加害者にならない。まさに憲法前文にある平和的生存権の実現を進めていく運動としても捉えることができます。何とか、私たちの仲間に広め、裁判運動として呼びかけていきましょう」

 

■来賓挨拶

「多くの仲間に語りかけ、世論を作り上げていく使命がある」

鈴木克昌衆議院議員(生活の党代表代行兼幹事長)

 「今、池住先生から、我々が直面している問題を、『弁論、理論、世論、3つの論』とお示しいただきましたが、まさに世論構成の部分を、我々がやっていく必要があります。生活の党の方向性は一致していますが、まだまだ多くの仲間に語りかけていくのが私の仕事だと考えています」

 

「もっと女性に、この問題を知らせなければいけない」

徳永エリ参議院議員(民主党北海道総支部連合会代表代行)

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「北海道といえば、TPPの反対運動は経済界、連合、農業者も一致団結してオール北海道で闘っているというイメージが強いと思います。この夏、本当にたくさんの勉強会をしてきました。そのなかでわかったことは、北海道も運動が非常に弱くなっているということ。3年半やってきましたのでピークアウトしているんです。政権も大きな力を持っていますし、お金も体力も使わなければならないということで、諦めの雰囲気が蔓延している状態です。

でも可能性があると思ったのは、じつは女性に全然広まっていないんですね。これまでTPP反対運動というと、農家のお父さんが出てくる。運動が終わって帰ってきて『TPPについて説明して』と言われても、難しくてほとんど説明できていないと言うんです。ですからこれまで、農家のお母さん方がTPPのことをまったく分かっていなくて、今回も農協の婦人部や地域の女性の方々にお話しすると、『TPPって、そういうものだったの?』『全く知らなかった』『それなら私もがんばらなきゃいけない』という声が、いま徐々に広がってきています。

農業者の方々には、政権からも色々と圧力がかかっているようですが、このピークアウトの雰囲気に負けないように声を上げ続けることが大事です。私も地元北海道で、改めてTPP断固阻止のためにしっかりがんばっていくことを、お誓いさせていただきたいと思います」

山田:「今日は現職のほか、前職の先生方、川内博史さん、大河原雅子さん、三宅雪子さん、辻恵さんなどがみえています。ほかにも、手紙、メール、電話もいただいています。今回の訴訟は、政党や団体に関係なく、個人で参加していただいて、みなさんに参加していただきたいと考えています」

 

■訴訟の要旨説明

「国民主権の憲法原則が、グローバル資本主権に書き換えられる」

岩月浩二(弁護団共同代表/弁護士)

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「私は当初、TPPのような高度に政治的・経済的な問題を法廷で争うことに、あまり乗り気ではありませんでした。これは、まさに政治が機能して決めるべき、非常に切実な国民の暮らしの問題です。その領域に関して司法は臆病だという問題に、弁護士は常に直面しています。ですから政治がきちんと取り組み、報道がきちんとTPPというものを伝えて欲しいと思っていました。

2012年の総選挙で、TPPを推進すると言っていた与党民主党が敗北し、TPPを阻止すると言っていた野党自民党が大勝。これでTPPは止まるはずでした。ところがその後、自民党はすぐに一気呵成にTPP参加に入っていきました。参加に入っていった後の状態を見ると、自国の利益を守るという立場では全くなく、どうやったら儲けることができるか、どうやったら日本の国民から収奪できるか、ということを密室の会談で決めているとしか思えないことがたくさん起きました。

一方では、TPPに反対する農協や医師会に対する強力な圧力がありました。今、本当にこの問題に直面して闘おうとしている団体は、2 、3年前に比べて少なくなっています。ここは個人として立ち上がるしかない。国会も内閣も機能していないなか、せめて、人権の砦である裁判所が私たちの訴えに真剣に耳を傾け、真剣に決断してほしい。裁判は本当に困難だと思いますが、もう私たちは黙っていられません。

この裁判で何を求めるか。まずTPP交渉の差し止め。次にTPP交渉、ないしTPP自体の違憲確認。最後に国家賠償請求、という3つの柱を立てます。原告が被る損害に対して、象徴的な損害賠償請求として、一人1万円を国に求めます。

続いて何を訴えるか。まず被害を訴えていきます。TPPを巡っては、日本の国家主権が侵害され、国民の生命、健康、自由、財産、幸福追究に対する権利が根底から覆されます。いま集団的自衛権を巡って、日本国憲法の平和主義が揺らいでいます。それとともにTPPの問題は、日本国憲法三原則のうち、『国民主権』『基本的人権の尊重』という二つの原則に対して決定的な影響を与えます。

まず『国民主権』は資本家主権、金融資本主権、グローバル資本主権に書き換えられます。そして、『基本的人権の尊重』のためには経済的活動の自由を制限するというのが日本国憲法の考え方だったのを、これからは経済活動が第一だというように、憲法の中身を書き換えてしまいます。そのためには、経済活動の自由を最大限に認める一方で、国民の暮らし、労働者の権利、食の安全、医療も破壊します。国民皆保険が続くとしても非常に薄い医療しか受けられなくなっていくかもしれません。

このような形で人権秩序も変わり、国民がこの国の政治のあり方を決めていったり、暮らしの仕組みを決めていくという権利さえ奪われます。これが法的に考えたときのTPPの被害だと思います。

次にTPPの本質論です。関税の問題は、この国の国土のあり方に影響が及ぶ非常に大きな問題ですが、関税以外にも自由貿易や経済活動の妨げになるものをなくす、つまり非関税障壁の撤廃というところに、TPPの本質があります。海外企業が参入して活動するための妨げになるような法制度や慣行全般を、グローバル企業が活動しやすいように作り替えていくという、資本側の運動にとって非常に有力な武器になります。本来、国の法制度や慣行は、それぞれの国の国民の暮らし、利益、安全を守るために作られたものです。それを最大限、企業に有利なように撤廃を進めていく法律的な仕組みがTPPなのです。

すでにWTOがありますが、WTOとTPPはいくつかの違いがあります。WTOの場合は、それぞれの国が『これを自由化します』と言うことで初めて自由化されます。一方、TPPは聖域がないといわれるように、あらゆる分野において自由化するのが原則。例外は認めてもらわなければなりません。

モノの関税だけが問題となっていて、モノ以外のサービスという言葉は非常に狭い印象として受け止められます。しかしサービスが意味するのは、一次産業と二次産業を除いたすべてです。日本のGDPでいうと、おそらく8割に相当する部分がサービスに分類されます。サービスは無形なので、ルールがあって初めて進められる、あるいは突然現れるとそれに対してどうやってルールを作っていくか、ということが民主主義の要だと思います。しかしTPPが結ばれることによって、こうしたことが日本一国では決められず、あらゆるグローバルスタンダードに一致するように日本は流されていきます。つまり国会では決められないのです。米国の合意がないと決められないような規制のあり方になっていくのではないかと、非常に危惧しています。

二つ目は投資というものです。投資はWTOの自由化リストには上がっていませんでした。ところがTPPでは、ISD条項という形でリストに上がっています。これは外国企業が相手国政府を、強制的な海外裁判で訴えることができるというものです。しかしこの裁判は、通常の裁判というイメージとは全く違います。常勤の裁判官がいるわけではありません。その都度、原告となる外国人投資家と、訴えられた国がそれぞれ仲裁人を一人選びます。その二人が、三人目の仲裁人を選ぶことになっています。三人で審判をしたら、その場限りで解散ということになります。国民に何らかの影響を及ぼすとか、国民の利益を反映してもらう、あるいは民主的な規制が何もない。全く責任がないんです。三人の密談によって、その国の制度が外国企業の利益を害したかどうかをどんどん裁いていく。

これは私的な支配をグローバルに及ぼしていくという、グローバリズムの考え方です。1%のための99%という考え方からいくと、非常にうまいやり方なんです。そういう仕組みをTPPの中に入れています。そのルールたるや、『公正で公平な待遇を外国企業に与えなくてはならない』と書いてある。ゾッとしますが、全く責任のない人たちが、国民から遠く、国民の影響力が及ばない場所で、外国投資家や企業にとって公正で公平な待遇を与えているかどうかをどんどん裁いている、というのがISD条項の実態です。

TPP全体を貫く考え方が象徴的に出ているのが、SPSという食の安全基準に関する考え方です。食の安全基準については、大きく分けると二つの考え方があります。一つは、添加物、遺伝子組み換え、農薬に関して安全性が確認できたものを流通させる、という考え方です。もう一つは、有害だという十分な科学的な証拠がなければ流通させなさい、という考え方。それがSPSというルールです。これを徹底すれば、米国で3,000ある食品添加物(日本では800)や農薬なども、有害という十分な証拠がなければ、止めることができなくなります。

食品の安全がこういう状態ですから、経済活動を規制する場合には、科学的な証拠がなければ規制ができなくなる、というように世の中のルールが変わってしまう。例えば今、子宮頸癌ワクチンが問題になっていますが、副作用が十分な科学的証拠がないということで、いつまで経っても子宮頸癌ワクチンの接種が続いています。このような形で、国民の生命や健康というものを第一に考えなければいけないというルールが、経済活動を規定してはいけないというルールに書き換えてしまう、それがTPPの最も恐ろしい部分ではないかと思います。

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TPP不平等条約論も訴状に入れています。アメリカからの年次改革要望書により、日本は米国や米企業のために作り変えられてきました。これを構造化するのがまさにTPPです。条約が締結されて終わりではなく、その後も自由化に向けた委員会や交渉会議が常設され、法律的な義務として年次改革要望書のようなものを延々と続けなければいけないというのがTPPです。一方で米国の制度は全く変わりません。米国のグローバル企業のために日本を作り変えていくという色彩が非常に強いのです。

自由貿易を進めれば、モノは安くなるはずなのに、例えば薬は値上がりする。これは知的財産権の保護という特別なものを、自由貿易の公正なルールだと言いながら紛れ込ませている、先進国の立場から途上国に対する非常に不平等な例のひとつです。自由貿易と言いながら、これは自由貿易ではなく、国家の仕組みの強制的な作り変えの道具に過ぎないと思います。

TPPというものは条約です。条約というのは、古典的には国と国の間の関係を決めるための国際的な約束事。しかしTPPは条約が法律に優位するという理由をもって、限られた交渉官が密室で交渉を行って決めた中身を、国内の国会に押し付けます。条約を結んだ以上、嫌でも国内法を改正しなければならなくなってしまう。米韓FTAを結んだ韓国では、現状でも130ほどの法令を改正したと伝えられていますが、これは1年目の数字であり、少なくとも5年間進めるなかでどれほど改正するのかわかりません。

日本は、一括して国内法制を変える義務を負うことになります。一体、何を変えるのかということも恐らくわからないでしょう。何の国会審議もなく、国会議員もわからないまま、強行多数の力だけで変わってしまう、非常に強力な条約だということです。国民には全くその内容を伝えられることがなく、国会議員ですら知ることができない。まさに一握りによるこの国の支配が起きようとしているのです。

このように、私たちは生命、健康、自由、財産、幸福追求のための権利を侵害されます。

①憲法25条の生存権=健康で文化的な最低限度の生活を営む権利。
②憲法13条の生命、自由及び幸福追求の権利。
③憲法21条の知る権利。

自分たちの国のあり方、暮らしの仕組みを決めるのに全く知らされないというのは、まさに奴隷と同じだと思います。これらの権利侵害を緻密に構成し、裁判所に訴えていく考えです」

 

■質疑応答

Q1.「『差止』の法的な可能性は?」

質問者:「憲法との関連では、交渉における秘密性から知る権利を侵している、もう一つは生存権や幸福追求権を侵している、だから違憲だと理解しています。しかし、差し止めということの法的な可能性、より具体的な根拠を教えてください。

それと、TPP交渉手続の異様性、あるいはTPP不平等条約論に入れるのかということはありますが、対アメリカとの問題として、批准後の承認手続きが生きてしまう、従って批准が終わっても法改正が要求されるという問題もありますので、漏れているようでしたらお願いしたいと思います」

A1.「『差止』は象徴的な意味。損害賠償請求のなかで違憲性に踏み込ませる」

岩月:「後者の指摘は、大変ありがとうございます。前者の質問については、裁判で交渉差止ということを法律的技術で追求しようとすると、個別の行政府の処分、何らかの特定の行為を行政訴訟に基づいて差止めるかという行政事件となってしまいます。一般民事の裁判は損害を救済する原理に基づいているのでまだ追求しやすいが、行政事件となると行政法特有の形式張った理屈が出てきて弁護士もよく分からない。これでは裁判に勝てるわけがありません。

『差止』は象徴的な意味で加えており、私たちの暮らしを侵害することに対して止めよう、という象徴的な意味。内実としては、裁判所は損害賠償の判断をするときに、民法的な論点を踏まなければならない。そのなかで、憲法上の問題があるということを、せめて司法に言わせることができないかと考えています」

池住:「違憲請求と差止がどのようにリンクするかということですが、岩月弁護士から『差止は象徴的なもの』という話でした。イラク訴訟の時もそうでしたが、今回も3つの請求ということを冒頭にお話ししました。

①違憲確認請求:TPPそのものが違憲、またはTPP交渉の進め方が違憲である。
②交渉差止請求:違憲なものならば、交渉そのものを差し止めする必要がある。

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しかし、この二つの請求は『訴えの利益なし』ということで、内容に入る前に門前払いされるということが、これまでの経験から強く推察されます。しかし私たちはそれにめげず、違憲確認請求と交渉差止請求をします。これだけではダメなので、3番目の請求として、

③国家賠償請求:国家賠償法一条一項という法的根拠に基づいた損害賠償請求をします。

国家賠償法一条一項は、国又は公共団体に属する公務員が、

要件1)違憲違法な行為をして
要件2)国民の具体的な権利を
要件3)侵害する

という3要件が満たされた場合、国はその行為を行った安倍晋三ら公務員に代わって原告に損害賠償金を払わなければならない、簡単に言うと、国家賠償法一条一項をこのように私は理解しています。

違憲確認請求と交渉差止請求は門前払いされる可能性が頗る高い。しかし損害賠償請求は、原告が不利益をすでに被っている、これから大きく被る可能性があります。この生の声をどれだけ集めるか。そしてしっかりと裁判官に受け止めていただき、審査に入る際に3つの要件である不利益の元凶となっているTPPそのものが憲法に照らしてどうなのか、TPPの違憲性に踏み込んでもらう、これが私たちの大きな目的です。

そのためには、原告の非侵害利益、苦痛、不利益を、説得力を持って真剣に法廷に出すということが大前提です。少なくとも非侵害利益からの救済をさせるとともに、憲法判断に踏み込んでもらい、違憲ということになれば、願わくばTPP交渉を差し止めてもらう、このような論理構成になっています。非常に難しいと思うが、真剣に法廷で弁論し、世論を運動として広げていこうというのが今回の会合の意図です」

Q2.「交渉の間に変えられていった法規制を検証すべきでは?」

質問者:「国民主権が資本家主権に書き換えられるというのは、確かにその通りだと思いました。『米国の制度は変わらない』という部分ですが、実施法のなかでは、恐らくアメリカの法律自身も変わることは変わる。実施する時点で変えなければいけないものは変える。ただしこれ以上は変えませんよ、という意味なんだと思います。

それと、『アメリカの600の企業のみがアクセス可能』とありますが、実際は貿易諮問委員会が出す協定文案を自由に見ることができるということであって、交渉のテキストを見ることができるというわけではありません。ただし、これまでアメリカの文案はそのまま交渉のテキストになってきた経緯があるために、企業だけがアクセス権があると言われてきたわけですが、実際今は、アメリカの連邦議員は誰でも見られる状況です。ただ、出してから4年経っているので、現在の交渉がどうなっているかを知ることはできないそうです。

それと、ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)を批准するかどうかとなったとき、国会議員の方々に説明する現場で、違法ダウンロード法に関することだけは変えなければならなかったが、『もう変わりましたのでこれ以上変えることはありません』というやり方でした。今回も内閣府の担当の方々は、『TPPで規制は大きく変える必要はない』『必要な法改正、規制改革以外はしません』と言っています。必要な法改正というのは交渉官が決めているわけですから、私はおかしいと思っているのですが、彼らの言い分はそういうことです。例えば2012年あたりから、交渉が妥結するまでの間に、一体どのようなことが変わっていくのか、すでにSPSに関すること、私たちの暮らしに関係することがどんどん変わってきていますよね。それらを列挙して、例えばその改正がなかったとしたらTPPに入れていたのかどうか、細かく検証するということが必要ではないでしょうか。アメリカの情報はキャッチしていますが、国内のことがわからないので、ぜひお願いしたいと思います」

A2.「知る権利の侵害を第一に、情報公開を求めていく」

山田:「内田さんには、弁護団にも色々説明していただきたい。我々はまず、憲法21条の知る権利の侵害を前面に押出し、国民も国会議員も知ることができない内容で、4年間秘密保持義務があるなかで、どんどん国内法も変えられ、制度が変えられていくということを問題にしています。知る権利の侵害ということが、最も具体的な主張になるのではないかと議論してきました。これに加えて、憲法25条の生存権も、もう一度正面から捉えようと考えています。これから弁護団ももっと勉強会をしていきますので、よろしくお願いします。

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TPPを慎重に考える会の篠原議員は、アメリカの国会議員がTPP交渉の内容を見ることができるなら、日本でも見られるように情報公開法で内閣に請求したところ、『アメリカと日本は違うんだ』と断られたということです。

それと昨年2月に安倍首相がアメリカにTPP交渉参加を申し入れた際、並行協議をするということになったが、その時の日米でそれに対する発表に食い違いがあります。その点についても情報公開を求めていきます」

田井勝(弁護士):「TPPによる非侵害利益のなかに『知る権利の侵害』があります。交渉過程が秘密となっているのが一番の問題。これは基本合意もできていない段階で、我々としてまず闘うべき一つ目の大きな問題です。交渉過程や内部文書の公開を求めるということ。公開されないことが知る権利の侵害だということを訴えます。その前提として、情報公開法に基づく情報公開請求を行おうと考えています。

知る権利は憲法上の抽象的権利であり、具体的な情報公開法という法律があったうえでの権利になりますが、その情報公開法に基づいた情報公開請求を内閣に対して交渉過程の内部文書を請求しています。ただ恐らく、これは交渉過程だからという理由で黒塗りのもが返ってくる。これは間違いない。そのうえで、それでいいのかという点を訴える。これだけ生存権などの被害を被っているなかで、私たち国民に何も知らされなくてよいのかというところをこの裁判で訴えていこうと思っています。

情報公開自体は、大体1ヶ月ほどで返ってくるので、今色々準備を進めているところ。TPPの基本合意が11月と噂されているので、情報公開の結果とTPPの動きを見ながら提訴という流れで考えています」

Q3.「条約が憲法に優位するのか? これは日米の『統治行為論』の問題だ」

岩上安身(ジャーナリスト/IWJ代表):「今回、山田先生に呼びかけ人に加わるようにとお声がけいただき、末席に加えさせていただきました。今日はジャーナリストとして質問させていただきます。この違憲訴訟というのは、問いかけること自体に意味があると思います。この訴訟を起こすにあたって、いくつかの壁についてお聞きしたいと思います。

政治が大きな判断を示すべき判断については、違憲かどうかを問わないという、とりわけ日米関係における『統治行為論』という問題を見据えるテーマではないかと思います。TPPは、日米安保条約あるいは日米同盟、対米従属の深化というべき条約です。これ以上の従属は国家としての主権を脅かすものであるということです。それを統治行為論という言葉で、憲法ないし裁判所は判断しないということが続いていいのか。これは『司法の死』ではないかということを、訴える必要もあるのではないか。

それから憲法98条で『条約が憲法に優位する』という解釈が、日米安保条約を念頭として常に横行しているわけですが、国際条約が常に優位するならば、TPPが締結すれば憲法に優位してあたり前という話になってしまう。それでいいのかということを議論の俎上に載せる必要があると思います。

またISDに関しては、司法の空洞化を招くわけです。最高裁より上の上級審が海の向こうに生まれてしまうも同然なわけですから、司法それ自体が否定されてしまうことです。日本の裁判所に対して『あなた方は下級審になりますがそれでよろしいですか』と言っているようなもの。司法主権が失われること。これを司法自らに問いかけることも、非常に大事だと考えます。

総じて言えば、国家が独立した主権国家でなくなってしまう。本当に従属国である。それでいいのかということを、司法の場で正面から問うということができないのか。その裁判を通じて世論を形成できないものでしょうか。

TPPに関してメディアは死んだも同然、全く報じませんが、中核となる議論がなければ、国民にも浸透していかないと考えます。以上の3つのことを見据えた議論ができないものか、お尋ねしたいと思います」

A3.「条約が憲法に優位する実態は恐ろしい問題。保守層こそ反対すべきだ」

篠原孝衆議院議員(民主党副幹事長/TPPを慎重に考える会代表):「ISDについてですが、憲法76条違反を問うべきだと思います。76条には、日本のもめごとは日本の裁判所でやると書いてある。それを外国の一審だけでやろうとする。裁判ではなく裁定で、紛争解決手段だとごまかす人もいると思いますが、これは明らかに裁判です。

『真正保守』ならば、絶対に国家主権の侵害だということで、安倍晋三首相がそう思っているのかは知りませんが、もっとも反対しなければならないはずだ。それを平然と従っているということを問題にしないということはよくない。ここは、保守層にとっては問題にするべき分野だと考えます。関税がどうこうという問題ではない。よくわからない、米国の言いなりになっている人たちが、『これで終わりだ』と言う。そんなことが許されるのか。ここが一番屈辱的な分野ではないかと思います。

韓国でも一番問題にされていること。裁判官でさえこれはおかしい、国家主権を侵害していると言っているのは、まさにISDの問題だ。いいのか悪いのかわかりませんが、いま保守層がやたらと元気です。『真正保守』こそ、TPPに反対しなければならないと思います。インチキな、なまくらポチ保守ばかりがTPPに賛成しているのだということを明らかにすべきではないか。裁判を通じてカウンターアタックをしていくべきだと私は考えます」

岩月:「岩上さんと篠原議員には、主権の問題について、訴状の骨格のはるか先をご指摘いただきました。この問題は、訴状でポンと出てくるというよりは、裁判官がTPPというものを何も知らないという前提から始めなければならない。統治行為論というのは、国会が正常に機能するということが大前提にあります。民主主義が正常に機能している前提で、だから『司法は高度に政治的な判断をしない』ということだと思います。

今の国会や言論の状況を前提にすれば、統治行為論に逃げ込んで主権をなくすということは、主権侵害に当たる。このような立論で裁判所の判断を迫っていく、というご指摘は貴重なものです。今後の訴訟も、これを視野に入れていこうと思います。

篠原議員のISDに関するご指摘は、訴状の構想ではあえて薄めたために入れていませんでしたが、これからは入れていくということでやっていこうと思います」

岩上:「憲法98条の問題に関してはどうお考えでしょうか」

岩月:「私ども法律家の感覚では、憲法が条約の下になる、という考えはまったくないんですね。少なくとも憲法学界の中で、条約のほうが憲法に優越するという主張をする人がいたら、極めて飛び跳ねている。実態としてどうなっているかは別ですが、法体系として憲法が最高規範であって、条約はその下位規範、その下に法律が来るという構造。これはほぼ憲法学の定説です。

実態がそうでないということは、非常に恐ろしいこと。法律家として、せいぜい言えるのは、安保法体系と平和憲法体系の二元秩序が並び立っているというところまで。実態としてはおっしゃる通り、安保条約があり、日本国憲法があるというような状態が、この国の状態です。この上に、すべての生活基盤を米国が主権者として振る舞うという形になれば、まさにTPPが日本を支配するということになります。そういう論点も考えたいと思います」

 

■準備会の設立提案

「主権在民。みなさんが個人として原告に参加いただきたい」

山田正彦(幹事長/元農林水産大臣)

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「今日は大変いい指摘をたくさんいただきました。我々弁護士もまだ訴状を詰めている段階ですので、さらに検討していきたい。みなさんには今後もぜひ協力をいただき、みなさんが『主権在民』として、訴訟の当事者になっていただきたいと思います。個人として原告に参加していただきたいと考えています。今日はこうした趣旨で、まず『TPP交渉差止訴訟・違憲訴訟の会』の設立準備会を作り、会員が集まった段階で訴訟の会の総会を開き、訴訟を始めていこうと考えています」

 

■準備会代表挨拶

「日本の将来のため、自分たちの国、文化、平和主義を貫ける国に」

原中勝征(代表/日本医師会前会長)

「私は元々、政治というものを遠くから見ていた人間です。しかし後期高齢者医療制度ができたときに、お金を稼ぐ人だけが命を大切にされることになり、この社会を作って年をとって収入がなくなった途端にもう死になさい、というような考え方が日本にあっていいのだろうかと考え、後期高齢者医療制度に対する全国的な反対運動を起こしたのが、政治に関わるきっかけでした。

TPPの問題を前にしたときに、果たして政治というものは、一体何のためにあるのかと思います。国民が幸せになり、日本にいてよかったという感覚を持って人生を終わることができる、そのために政治は存在するのだろうと思います。ところが今の政治というのはどうでしょうか。総理大臣になると、憲法から何から全て自分で決めていいというような錯覚を起こしているのではないでしょうか。いま日本は民主国家という政治体系にはなっていますが、総理大臣の言うことに反対すれば次は公認しないというようなことが、果たして本当の民主主義なのでしょうか。

以前の自民党がうれしかったのは、自民党の幹事長をしていた茨城県のある代議士が、ちょうど今と同じように海外派兵の問題が出たときに、自民党の幹事長でありながら、こんなふうに仰ったことです。『憲法とは国民が我々政治家を見るためにあるものだ。つまり憲法=国民であり、その通りに我々政治家が働いているのかということの監視役であり縮図である。ところが多数を取った一時的な内閣が、それを乗り越えて自分たちの解釈をしたり、やりやすいことを実行するということは、とんでもないことだ』と。

今の自民党にそれがあるとすれば、国民はもっと安心できるはず。ですが残念ながら、今の日本には健全な野党という力が失われています。自民党に代わる政権を担うような政翼が生まれてこない。それならば自民党でいいか、というようなネガティブな気持ちで、訳が分からずにアベノミクスというものを選んでいるという状態は、非常に残念なことです。

私がこのTPPをどうしても阻止しなければならないと思うのは、今の日本を見たときに、小泉政権の時代から、若者が将来の日本に向かって責任を取れるようなポジションを与えられているだろうか、日本人としてこの世界第3番目のGDPを持っている国で、幸せを感じて生きているだろうかと考えたとき、とんでもない日本になっているということからです。さらにTPPが通れば、食の安全を初めとして、医療も保険も、我々が一生懸命貯めた貯金までが、すべて株式会社にされて株を外国人が持つようになれば、一体何のために一生懸命働いて貯金をしたのだろうか、保険をかけていたのだろうかと。こんなことが果たして許されるのだろうかと思うわけです。

ここに生きている私たちは、自分の子どもや子孫のために生きています。明治維新から独立し、東南アジアが占領国にされ、そうはなってはいけないとがんばってきた先人たちの意志を考えたときに、これをどう考えるのか。やはり国民というのは、独立心というのは、自分たち国民がきちんとした政治を行い、国際的な貢献をし、国際的な決まりごとを検討しなければいけない。今の日本には、そうしたきちんとした政治がない。小選挙区の問題であるとか、努力もしたことがない二世三世の議員が総理大臣になるというようなことが果たしてよいのでしょうか。

このように日本の将来を考えたときに、どうしてもTPPを阻止していかなければなりません。この運動を認めていただき、明るい日本の将来のために、自分たちの国、自分たちの文化、そして自分たちの平和主義を貫ける国となることを願っています。みなさんのご指導を得ながら、代表の役目を全うしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 

■閉会挨拶

「日米首脳は自国民を騙している。立法、司法の両面から阻止を」

篠原孝衆議院議員(民主党副幹事長/TPPを慎重に考える会代表)

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「TPPは本来、国会できちんと議論すべき問題。米国の国会議員は皆カンカンに怒っています。なぜか。条約は本来、内政にわたるものでも、テーマは限定されることがほとんど。たかだか関税に関することだから、USTRに任せている。ところがTPPの内容は、国政全般にわたって米国の制度を変えることになっている。これは国会議員のやるべきことで、USTRの役人に任せた覚えはない、というわけです。だからTPA(貿易促進権限)は未来永劫通さないし、TPPが出てきても承認しないというのが野党の一致した意見です。

TPPはまさに立法の行政に対する白紙委任だ。アメリカはこれをしないと言っている。しかしオバマ大統領と安倍首相は二人ともTPPを政局に利用しようとしています。名誉のため、オバマは『自分がTPPをまとめた』とう格好づけのためにやっている。通さなかったのは議会の責任だ、という極めて無責任な対応になると思われます。

一方、安倍政権は、第三の矢の見込みがなくなった今、期待感を長続きさせるため、TPPがまとまったから景気がよくなったと言おうとしている。両大国の首脳が自国民を騙しながら自分の延命にTPPを利用しようとしている状況です。これは絶対に許してはならない。残念ながら、国会でビシバシやらなければならないが、議席を失っている方が多いですので、立法では私も一生懸命がんばりますが、司法でもぜひがんばっていただきたいと思います」