2015年7月29日、ウィキリークスが新たに国有企業に関するリーク文書を公開しました。その日本語訳と、オークランド大学のジェーン・ケルシー教授、TPP交渉差止・違憲訴訟の会の山田正彦幹事長による分析です。

ウィキリークスによる発表
https://wikileaks.org/tpp-soe-minister/

2013 年12 月7~13 日

国有企業問題に関する閣僚への指針

 

TPP交渉参加国の大半は、商業的活動や、以下の項を含むWTOやFTAにおいて定められた現在の義務を超える独占に対する規制を支持してきている。それは、

・国有企業及び独占企業の、商業的配慮を基にした活動をすることと、売買における非差別的な対応に合致することを確かなものにすること、
・委託された政府の権威により活動する際には協定に定められた義務に従うことを確かなものとすること、
・国有企業に政府から委任された行為を含む場合にはその権限の範囲を法廷にて供すること、
・商業行為を行う国有企業と競争相手である民間企業との間の不公正な規則、
・内外に対する説明責任、そして、
・国有企業の章の実行を監視あるいは実施するに当たっての委員会設置である、

技術的諸問題が残されているがそれは交渉の場において解決されるものと信じている。
国有企業に関する知財の効果的執行が知的財産権の章に移ってしまっている。
幅広い分野で閣僚による指針あるいは判断が求められている。

・貿易相手国に対して逆効果をもたらす国有企業に対する政府支援にどう対処するのか、
・(物品やサ-ビス、貿易や投資などのような)幅広く適用される規律を政府が支援する場合に必要とされる例外措置あるいは他の期待での柔軟な対処とはどうあるべきか、
・国有企業の定義、政府の各レベルに適用される国有企業の規律、そして
・紛争解決の仕組み

1.政府の支持
すべての交渉参加国は、既に物品貿易に影響を与える補助金に関するWTOにおける義務を有している。TPP交渉参加国は、国有企業に対する政府支援について(WTOと)よく似た規則を、より幅広い状況下に広げようと検討している。例えば1)物品貿易に影響を与える政府支援、2)物品貿易・サ-ビス貿易双方において交渉参加国の領土内において国有企業と他の交渉参加国からの投資との間の競争に影響する政府支援である。しかし提案された内容は、TPP交渉参加国の利害に対して反対の影響をもたらすくらいまでに政府による国有企業への支援を制限するものでしかない、

2.例外措置と他の柔軟性
もし政府による国有企業支援に広範な規律が含まれているなら、交渉参加国は各国に対して、規律を台無しにすることなく各国政府に適切な政策余地を与えるために、どのような例外措置や柔軟性が必要なのか決定する必要がある。例えばWTOでは物品貿易においては、補助金規律の一般免責条項は無い。TPPではどのようにサ-ビス貿易に影響を与える政府補助に対処すべきだろうか?当該国内において国有企業と隠された投資との競争に影響を与える規律に対してどのように柔軟性で対処できるだろうか?交渉参加国は、一般免責、範囲の除外、交渉参加国の特定国に対する柔軟性を提案してきた。

3.国有企業の定義と、行政組織全ての段階の政府への適用
隠された国有企業の定義に当たってどのような基準を設けるべきだろうか?規律の目的は?政府所有とは?支配力の行使は?効果的な支配とは何か決定するにはどんな基準を使うべきか?等々中央政府、地方政府など異なるレベルの政府において設立され委託された国有企業や独占的企業にどのように規律を適用するのか?各国は中央政府ではない範囲あるいは組み込まれたものとして関与するのか?

4.紛争解決システムの適用
推進派は、意味のある、強制可能な、他の章で使われている国家間の紛争解決の仕組みの重要性を強調している。参加国は、追加的対話や検証が、正式な紛争解決の手順に先駆けて必要ではないかとかあるいは紛争解決のためには他の要素も含まれるべきだはないかとの検討をしている。

ウィキリークスの原文
https://wikileaks.org/tpp-soe-minister/WikiLeaks-TPP-SOE-Ministerial-Guidance.pdf

今回リークされた文書から生じる主要な疑問点

 

<今回リークされた文書の内容を受けて、ニュージーランドのオークランド大学法学部教授であるジェーン・ケルシーさんは、以下の疑問点を指摘しています>

・国有企業の公共サービス機能及び公共財機能についてどのような保護が与えられるのか、国有企業はどのように定義されるのか、また国有企業にすべてのルールが適用されるのか。
・締約国政府は国有企業のいずれがルールに服するかを定めることができるか、また他のすべての締約国の同意が必要か。
・すべての締約国が等しく取り扱われるのか、あるいはこれらのルールは国有企業を多く抱える国々により大きな影響を与えるものであるか。
・このルールは、経済、雇用及び地域産業が国有企業に依存する国々、特にベトナムのような発展途上国にとってどのような意味を持つのか。
・ルールは中央政府レベルにある国有企業にのみ適用されるのか、またそうであれば、それは中央集権化された政府を持つ国々に対して、連邦制の国の下位の政府に対するものと反対に、過度の規制を押し付けることにならないか。
・もし国有企業が商業的な側面と社会的又は公共財の機能との複合的性格を有する場合、あるいは市場モデルが失敗して政府がその機能を回復し、またその機能を提供するために国有企業に対して支援を行う場合、なにが起こるのか。
・もし国有企業が、郵便サービスやテレコムサービスのようなユニバーサルサービスの提供の対価として特別な支払いを受けている場合、ユニバーサルサービスを提供する義務はどのように保護されるのか。
・国有企業がユニバーサルサービスと共に民間企業と競合する活動を行っている場合、ユニバーサルサービス提供義務に対する支払いは反競争的な支援に該当するか。
・当初資本の提供又はその他の支援が必要な場合に、社会的又は市場の失敗に対応するために新たな国有企業を設立することは可能か。
・TPPA の国有企業の章は、国有企業の社会的そして支援を受けた側面を剥ぎ取ることによる民営化への裏口ではないのか。したがって、民間によって容易に運営できない理由はないのではないか。
・TPPA 締結国からの投資が国有企業と同等の待遇を受けるべきであれば、外国籍投資家は、外国人投資家が差別とみなすものを訴え、または外国籍投資家の期待が実現しなかったことを理由に不公正な取り扱いを受けたと訴えるために、ISDS を使用することができるか。
・資源やインフラの独占はどのように影響を受けるか。
・独占に適用されるルールは、将来の独占だけでなく、すでに存在する独占にも影響を与えるか。
・提案された監視・評価手続の下では、政府や個別の国有企業による権限乱用や嫌がらせに対してどのような保護が存在するか。
・政府は、監視・評価手続の一環としての情報提供を求め続けることによって、他国の国有企業のリソースを停滞させる可能性がないか。また民間の競合企業がそのような情報提供義務を負っていないため、それらの国有企業を競争上不利な立場に置く可能性がないか。
・もしこれが完全に新しいルールのセットである場合、すべての政府がこれらのルールがどのように機能するか本当に理解しているか。また締約国政府は、紛争解決機関がどのように紛争を裁くかについて、確信があるのか。
・透明性及び規制のコヒーランス(収斂)を含む、他の章において規定された「透明性」条項は、国有企業にも適用されるため、他の国からの競合企業が、それらの条項を情報、説明及び国有企業に関連する規制当局の決定に対する評価を要求し続けるために利用する可能性はないか。

ケルシー教授の指摘(ウィキリークスより)
https://wikileaks.org/tpp-soe-minister/analysis/WikiLeaks-TPP-Expert-Analysis-SOE-Ministerial-Guidance.pdf

<山田正彦・元農林水産大臣のコメント>

 

始めに、ウイキリークスのリークは米国では「非公開の公式文書」として認められていて、日本でもTPP差し止め訴訟の証拠として提出できるものである。

1、ここでの国有企業とは国(公共)の支配下にある法人の行う事業をさすもので、日本の場合は国民健保、共済健保、建国保険組合、国立、市立、離島などにある県立病院、及び畜産振興事業団エーリックなどの野菜、砂糖、畜産物の価格安定資金の事業もすべて含まれるもので、TPPでは例外があるとすれば、すべて明記して、他の11か国の同意を得ておかなければ、ネガテブリスト方式なので全てが該当する。

2、国民皆保険制度は政府はそのまま堅持すると言ってきたが、今回明らかになったように、外国の保険会社との関係では、明らかに国有企業として、政府の関与が差別的で不公平な競争であり、「相手国企業の不利益」をもたらす「反競争的な行為」であるとの攻撃を受けるものと思われる。その結果、国民が安心して利用可能な安価で公平な医療制度が壊されることになってしまうものと思われる。例えば薬価は日本の場合、薬価審議会の決定を経て厚生労働大臣が決めて2年に1回引き下げることになっていたが、これからは、政府は米国の製薬会社と協議して決めなければならなくなる。

3、また中小企業などの政策金融公庫、住宅金融公庫などの公的な金融機関、労働組合、生協、農協などの共済保険にも適用されて、政府による税制上の優遇措置などもすべて該当する。例えば、郵貯の簡保に、政府が癌保険を認めれば、郵貯銀行は国有企業なのでアフラックと自由で公平な競争にならないとして、日本郵便でアフラックの癌保険を売り出したように。

4、新聞でも一部報道されたが、国だけに限らず地方自治体の公共事業も国有事業に準じて、例外、工事の限度額がTPP協定で明記されない限り、日本の中小の企業と米国のペクトル、ゼネコンなどと英語と自国語との競争入札になる。

5、今回のリークされた内容からすれば、これらの「差別的」「公平な競争」「相手国企業に不利益を与えない」「反競争的」は条項に反したらISD条項によって解決されることになっている。政府は莫大な損害賠償を求められることになる。しかも、これらの規制そのものが、非常に曖昧で広範なものになっているが、ISDでは外国資本の投資から賠償を求められたら、日本政府がそうではないことを立証しなければならなくなる。極めて困難である。

6、それに大事なことは、漁業補助金の禁止は報道されたが、農業、医療、国立大学などに出される補助金も日本政府は自由に決めることはできなくなる。今回明らかになったのはTPPでは、政府が補助金を出すにしても一定の基準定めることが求められている。平たく言えば米国の同意がなければできなくなるのではないかと思われる。

7、さらに相手国、米国などの企業に「不利益を与えるような行為」、は禁止されることになる。例えば自治体が行っている「地産池消」の学校給食も、現在韓国で問題になっているが、カーギルなど米国の企業にとっては「不利益を与える行為」にあたるものと思われる。

8、さらに、大切なことは、今回のリークされた内容では、日本政府による外資企業に対しての「反競争的な行為」は禁止されている。例えば食の安全で、私自身も訪米の際「遺伝子組み換え食品の表示を法律で義務つけしているのは止めてほしいと言われたが、まさにこれらの法律は「反競争的な行為」に該当するものと思われる。

9、今回、リークされた国有企業の章は2013年12月7日から10までに出されたものであることを注目してほしい。今回次々に新聞で報道された牛肉、豚肉の関税もかつて読売新聞がリークしたが、その通になっているにかかわらず平気で誤報であると言い張った。この間2年近く交渉を重ねての今日なので、リークでの疑問部分はすべて解決済みであると考えられる。それの情報開示を先ず、私達は求めなければならない。

リーク文書の日本語訳、ジェーンケルシー氏、山田正彦氏コメント(PDF)

文書提供:アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長・内田聖子氏