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7月のハワイ閣僚会合が決裂する要因となった自動車原産地規制の問題と、今後のTPP交渉の展開について、TPP阻止国民会議から事務局長コメントです。

深刻なTPP自動車原産地問題と今後の展開について

2015年8月31日
TPP阻止国民会議事務局長
首藤信彦

ハワイ会議失敗後も「8月末までにTPP合意」などという虚言に等しい政府の発言は、すでに25日のマレーシアでのASEAN会合で事実上否定されていたのだが、あらためて現実に8月末日を迎えて、TPP交渉の今後の展開予想を述べたい。

TPP交渉自体は「ほんの片手程度の残存課題」(総理)どころではなく、不透明化するアメリカ議会の動向、そして残されたいくつかの巨大テーマの交渉停滞という大状況で足止めされていると言っても過言でない。その一つが自動車原産地問題である。

前回のTPP阻止国民会議配布報告で、政界紙POLITICOに掲載された“自動車の原産地規則がTPP交渉にブレーキ”の翻訳記事(8月18日)を参照いただきたいが、ニュージーランドの酪農貿易に関する強硬姿勢がハワイ会談を頓挫させたという日本での報道(政府発言)と異なり、現実には日本とメキシコとの自動車原産地規則をめぐる対立が、「最後の閣僚会議」と銘打ってはじめられたハワイ会議を失敗させたとの国際社会の一般認識が理解されたと思う。

ハワイ後に日本政府側もメキシコとの関係修復協議をしていると伝えられるが、8月27日付けのインサイドUSトレード紙は「自動車原産地規則をめぐる日米交渉の詳細を暴露」という記事を掲載しているが、これを見ると、この問題は短期間で簡単に解決しないことが予想される。

それは第一に、自動車原産地問題で日本に厳しい条件をつきつけているのが、メキシコだけでなく、NAFTA加盟国のカナダも同様だということだ。カナダ政府の態度が交渉に影響を与えるとなると、短期的には解決しようがない。それはカナダが10月に選挙を抱えているからだ。カナダ政府としては、そもそも、選挙が終って次の政府の姿勢が明確にならないと現実的な交渉条件をだしてくることが困難だからだ。

第二に、カナダが自動車問題で自己主張するとなると、今後の交渉そして合意は関係4か国が参加する会議を一回開くだけで決まるのではなく、自動車・部品市場にさまざまな思惑をもった立場の違う4か国間の①日本/メキシコ②日本/カナダ③カナダ/メキシコ④アメリカ/カナダ⑤アメリカ/メキシコ⑥アメリカ/カナダ/メキシコそして再び⑦日本/アメリカという複雑な「2国間協議の多層的な合意」が必要となる。

第三に、対象となるのが、自動車本体と同時に、各国それぞれ優位性の異なる多種の主要コンポネント、部品、それに使用するアメリカからの原材料・部品輸入などが非常に複雑な相互影響関係を作りだし、そのうえで原産地を決定する基準を定め、その結果を追跡しなければならないということである。

日米2国政府間協議では、完成車・エンジン・主要部品の原産地規則は純価格方式で45%(当初55%と報道されたが)、その他の部品は30%で合意したと伝えられた。これに対しアメリカ・カナダ・メキシコの産業側は軽トラック、エンジン、トランスミッションに50%の原産地規則を求めている。

NAFTAでは、自動車および軽トラック・エンジン・トランスミッションに62.5%、それ以外の部品に60%の原産地規則を定めているが、同時に複雑な評価・トレースのシステムを構築している。しかし、そのようなものはTPPでは予定されていない。

さらに日米間ではTPP非加盟国から輸入された部品も組み込んだ7カテゴリーの部品もTPP加盟国原産として自動的に認めることに合意されているが、そのようなことは他の2国は是認しない。

このような議論を見ると、自動車・部品の原産地問題は解決・調整すべきテーマがあまりに多く、容易には解決できないことがわかるだろう。この問題が深刻なのは、問題は自動車産業だけではないからだ。工作機や電気製品を含め日本製品の多くが、アジアに展開する日本企業からの輸入部品を組み込んでいることを考えると、このテーマの深刻さが理解できるであろう。

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以下、POLITICO紙から。仮訳提供:TPP阻止国民会議
http://www.politico.com/

自動車の原産地規則がTPP交渉にブレーキ(POLITICO紙)

By ダグ・パーマー(Doug Palmer)
2015年8月18日

確実なことは、自動車の「原産地規則」(Rule of Origin: ROO)が今後数週間に環太平洋経済連携協定(TPP)交渉者がこの貿易協定の仕上げに取り組むなかでもっとも複雑な、驚くほどに政治的にセンシティブな問題のひとつになるということである。

この物議を醸している規則は、自動車のコンテンツのどれだけが協定参加国からのものであるかに基づいて、協定によって輸入自動車および部品が、関税の削減あるいは免税待遇を受けることができるかどうか判断するものである。

平均的な自動車は世界じゅうから15,000ぐらいの部品をつかっているため、原産地規則を複雑にしている。驚くほど、というのは自動車1台のどれほどが自由貿易協定の範囲内で作られているかをはかるいくつかの異なる方法があるからである。また、政治的にセンシティブだというのは、労働組合と部品製造企業が国内の雇用を守るために厳格なルールを求めているからである。

「労働者は、自動車会社が、TPP参加国であってもなくても、どこかの国から輸入した部品を組み立てるにスクリュードライバーを使うだけではないということを保障することを望んでいます」とウェッセル・グループ社(政治、国際問題などのコンサルタント会社)のマイク・ウェッセル社長は語った。同社の顧客のなかには米鉄鋼労働組合(USW)がある。「自動車メーカーは、TPP加盟国からだけでなく、たとえば中国のような国からも、買いたいところから部品を買えるように弾力性を求めています」とのべている。

交渉担当者たちは、2週間余り前にハワイで、もっとも最近の交渉を終えたが、酪農製品の輸入制限を緩和することへのカナダの抵抗や、最新鋭の生物製剤の知的所有権保護をめぐる米国と他の国々との間の対立など、いくつかの問題を解決できなかった。

しかし、それまでほとんどメディアが関心を寄せなかったため、交渉を追ってきている人びとの多くが仰天したこのROO問題は、今後、最も解決が困難な問題となりうる。

自動車の原産地規則をめぐる交渉は、(ハワイの)マウイで、交渉国12か国のなかでも突出した2か国である日本と米国が二国間交渉で編み出した合意内容が、20年になる北米自由貿易協定(NAFTA)よりもゆるい条項だとして、カナダとメキシコが日米合意案に反対したため立ち往生してしまった。

最大の問題分野についての交渉が2か国間あるいは小グループで続いているなかで、NAFTA3か国(米、加、墨)とそのアジア最大の競争相手はいま、すべての国を喜ばせる自動車のルールの新しい「着地点」を見出さなければならない。交渉を2016年の米国の選挙の争点にしないようにするためすみやかに、貿易協定の議会承認のための日程が終わってしまわないうちにすることが必要である。

「得られた教訓の一つは、すべての交渉参加国ともっと協議をおこなう必要があるのかということだと思います」と米商業会議所のタミ・オーバビー・アジア担当副議長はのべた。

原産地規則というのは、自由貿易協定に参加する国々が最大の受益者になるようにすることを意図したものであって、他の国の利益になるようにするものではない。この問題は、TPPのもとで米国の自動車市場のシェアを失うのではないかと憂慮しているカナダ、メキシコにとって重要なのである。

米国は2014年に日本から500億ドルをわずかに超える自動車と自動車部品を輸入した。カナダからは630億ドル、メキシコからは980億ドルだった。メキシコからの輸入の半分以上-500億ドル近く-は自動車部品であった。

原産地規則は貿易協定によってことなり、NAFTAの場合、自動車の「正味コスト」の少なくとも62.5%は米、加、墨のコンテンツ(部品)を反映することを求めている。
直近の米韓自由貿易協定は「現地調達率」が、同じ正味コストと同じ算出方法を用いてわずか35%となるよう求めている。しかし協定はまた、ほかに2,3の方法論を容認している。それには地域調達率が少なくとも55%を義務付ける「ビルド-ダウン」テストが含まれる。

この方法は部品、労働コスト、および協定外の国ぐにからの他の調達分を、完成品から差し引いたもので、正味コスト算出方式と違って、自動車製造企業はひとつの自動車を組み立て、市場に出すすべてのコストを最終値に含めることができる。それは、正味コストの方式を利用して見出されるよりも高い割合の現地調達率になる。

米国の自動車メーカーは正味コスト方式をとることを望んでいるが、他のアジア諸国はビルド-ダウン方式を使っている。どちらの方式も、現地調達率を異なる方法で算出しているが、同じものと考えられている。

それでも、多くの米議員は、たしかに協定は議会が承認したが、米韓の原産地規則は利用した方式に関係なく、外国のコンテンツを容認しすぎているとのべた。それが米国の通商担当者にたいしTPPにおいては、より厳格なルールを追求するよう、少なくとも韓国との協定よりも弱いものには合意しないようにとの圧力をかけるものになっている。

ひとたび交渉が始まると、日本が求める「リベラルな」原産地規則と、NAFTA諸国が求めるより厳格なアプローチの間には大きな差があることがすぐに明らかになった。もっとも、米、加、墨は一致した立場ではなかったのであるが。。。。

米国と日本は最終的には合意に達した。それは両国が地域の他の自動車メーカーも受け入れるよう希望するものであった。しかし、メキシコとカナダは反対した。同協定が非TPP諸国の自動車部品納入業者にあまりにも有利になっているというのが理由だった。
「NAFTAパートナー諸国がいかに不満であったか、これらの国々の懸念の強さには、だれもが驚いたと思います」と商業会議所のオ―バビー氏は言った。

メキシコの自動車部品メーカーは、少なくとも関税の恩恵を受けることができるようにするにすべての自動車、エンジン、変速装置のすくなくとも50%をTPP地域内から調達するようにしてほしいと、特に強く主張してきたと、ロイターは報じた。

一方、米国の交渉担当者は米国の輸入車にかける関税はわずか2.5%であり、多くの車の最終コストのうちでは比較的取るに足りない額であるという現実に直面している。つまり、もし原産地規則が過度に厳格であれば、自動車メーカーはそれを無視し、その代わりに関税を支払うだけで、貿易協定の目的を無効化するだけであるということである。
この理由で、米国の鉄鋼労働組合(USW)、自動車労組(UAW)、機械工労組(IAM)が行った、NAFTAにおける原産地規則62.5%から出発してそれを8年かけて75%に引き上げるという提案は、米国交渉担当者の弾みをつけるものにならなかった。

対照的に、米国が小型トラックにかける輸入関税はずっと高く25%であり、それが一因となって米市場向けの生産の多くが北米で行われている。つまり、よりリベラルな原産地規則は、日本その他のアジア太平洋諸国に、トラック生産を増やし、それの米国への輸出を増大させるようインセンティブをあたえるものとなりうるということである。現在米国内で販売されている日本車の約70%は米国内生産されている。

しかしながら、フォード社、GM社に免じて、アジア太平洋合意は米国の乗用車、トラックの関税に極端に長い段階的削減期限を設ける見込みで、そうすれば各国がどんな原産地規則に同意するかは、何年にもわたって自動車産業や労働組合側にかかわることはないのではないか。

日本は、輸入自動車にたいする関税を設けない。それは原産地規則をめぐるたたかいがおもに、中国についで二番目となる巨大な米市場へのアクセスをめぐるものであると言うことを意味する。しかしながら、米国の交渉担当者は日本にたいして同国の非関税障壁を取り払うよう圧力をかけている。米自動車産業は、輸入税がなくなっても日本が非関税障壁のために世界でもっとも閉鎖的な市場のひとつになっていると主張している。米担当者は規制、認可、環境その他新しい技術の車、流通などの分野における障害を減らしていくことは、米国内でつくられる車だけでなく、北米のすべての自動車メーカーの利益になると言っている。