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9月末にアタランタで開かれる閣僚会議、懸案の自動車の原産地規則に関して、TPP阻止国民会議事務局長からのコメントです。

急浮上のTPP協定発効問題

2015年9月24日
TPP阻止国民会議 事務局長
首藤信彦

9月末にアタランタ閣僚会議でTPP合意(大筋?完全?)というような、誇大妄想というか、にわかに信じられないような話が当たり前のように大手メディアに登場するが、その前提となる9月22日の四か国(日米・カ・墨)自動車原産地問題の事務協議では結論に達しなかった。ニュージーランドが強硬主張する酪農問題、解決の糸口の見えないIP問題などにほとんど進展というか解決努力が見られないことを考えると、はたして9月末あるいは10月初週のアタランタ閣僚会合で12か国によるTPP合意が成立するとはにわかに信じがたいものがある。

ここで急浮上してきたのが、日本政府の不穏な動きで、マスコミにはほとんど報道されていないが、各国は警戒を強めている。それは日本政府がどうやらTPPの発効条件の提言をしているらしいという情報である。

むろん、その内容は公開されていないが、情報筋によると①12か国の過半数=6か国の合意②TPP参加国GDPの85%をカバーする国の合意。。。ということらしい(ケルシー教授)。

そうすると、次表のごとく、日米それに必ず合意に参加すると考えられるシンガポールを入れると、3か国で79.04%となり、85%には5.98%不足するだけということになる。すでにNAFTA構成国であるカナダとほかの小国、あるいは10月19日選挙でおそらく政権交代となるカナダがはずれても、NAFTA国であるメキシコにオーストラリアを加えてどこか小国を伴えば、簡単にTPP協定は成立そして発効ということになる。

Country Name 2013 GDP (US$) Each TPP country’s % of total TPP GDP
Australia 1,560,372,473,125 5.61
Brunei Darussalam 16,111,135,786 0.06
Canada 1,838,964,175,409 6.61
Chile 276,673,695,234 0.99
Japan 4,919,563,108,373 17.68
Malaysia 313,158,247,643 1.13
Mexico 1,262,248,825,556 4.54
New Zealand 188,384,859,627 0.68
Peru 202,362,597,917 0.73
Singapore 302,245,904,260 1.09
United States 16,768,053,000,000 60.27
Vietnam 171,222,025,390 0.62
TOTAL TPP GDP: 27,819,360,048,319
85% of total TPP GDP: 23,646,456,041,071
US&JP GDP: 77.96
Data from http://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD

むろん、TPP協定はアメリカでは簡単には発効しない。TPPの争点、自動車・農産品・IP・国営企業・労働・環境・人権などで議会側は手ぐすねひいて待っているわけで、このような不完全で水準の低いTPP条約を簡単に承認する状況にはない。それどころか、議会が大統領に与えた特別権限(TPA)では、かねてより問題のcertification(承認)手続きを要求しており、極端なことを言えば、他の11か国で発効しても、アメリカでは発効を認めないという事態も起こりうるのである。

このようなまるでトリックのような大胆提案を、いかにアベノミクスの中心政策で、何とか実現したいと考える日本政府も、単独で独自に提出する勇気(?)があるとは、考えにくい。アメリカ側からの要請あるいは共同提案かもしれない。

いずれにせよ、目前にせまったアタランタ閣僚会合の趣旨が理解しにくいため、TPP協定発効条件提案の情報は多くの参加国を一層、疑心暗鬼にさせている。

レビン議員のメキシコ訪問から透けて見えるTPP自動車問題の構図

TPP阻止国民会議
事務局長 首藤信彦

日米にメキシコ・カナダを加えて行われた自動車原産地問題も、確たる成果が作れないまま終わったが、それは当然で、添付(下記)の記事に見られるように、TPP交渉特に自動車問題では交渉に参加するアクターの数が飛躍的に増えているのだ。これまではTPP協議は政府間交渉であったが、アメリカ議会がTPAを成立させたことにより、議会そして個々の選挙区特殊事情を抱えた議員が直接関与することになった。日本ではTPAを以前の「大統領交渉権限」と同じように考える誤解あるいは政府誘導があり、これでアメリカ政府が指導力を発揮と宣伝されたが、現実に今年成立したTPA法は議会が政府を監督・指導することになっている。サンデー・レビン議員の横やりともいえる行動はまさにそれを受けているのだ。

最大の問題はアクターの増加だ。自動車原産地問題は4か国政府に加えて、アメリカ・カナダ・メキシコの労働組合が影のアクターとして登場し、それがそれぞれを代表する政治家に大きな影響力を与えている。したがって、交渉の長期化はさけられないが、問題は日本である。政府の立場を強化するにも労働界との綿密な連絡が欠かせないはずだが、日本政府がどれだけ産業界と労働界の協力を得られているかは疑問である。TPPが自動車原産地問題でとん挫するというのは、小生の以前からの主張であるが、ここまで日本の立場が3か国の包囲網の中で悪化していくことを考えると、将来に不安を感じないわけにはいかない。それはTPP協定どころか、日本の国際貿易自体に深刻な影響を与えるであろう。日本政府は一刻もはやく、情報を開示して、オールジャパンでこの問題を議論していく必要がある。

現在、政府がいかに早期妥結を宣伝しようとも、TPP交渉は座礁したままである。10月に予定されるカナダ選挙だけでなく、オーストラリアではTPP旗振り役のアボット首相も辞任してしまった。政府は後任者も同じ新自由主義路線と宣伝するが、責任者の交代は事実上の「仕切り直し」となる。TPP早期妥結をめぐる政治情勢は悪化の一途である。

ここで最も注意しなければならないのは、TPPの早期成立をあきらめて、日米が二国間協議の履行を前倒ししてくる可能性である。一方ではあたかもTPP協議が続いているかの体裁をとりながら、二国間で貿易の実をあげるというのがアメリカ側の戦略であろう。日本政府そしてなによりも国会がこの危険を理解し、長期的に日本経済に悪影響を与える制度的改変やアメリカへの妥協をしっかりとこの時期に押しかえる努力が必要だと考える。

交渉が最終段階にはいって、レビン議員がメキシコで「実態調査」

IUST紙 2015年9月10日投稿

米下院歳入委員会有力メンバーであるサンダー・レビンSander Levin議員は先月メキシコを訪れて「実態調査」をおこない、メキシコとの2国間貿易問題について当局者や利害関係者と話し合いをおこなった。

訪問は8月23日の週におこなわれた。それはちょうど環太平洋連携協定(TPP)交渉最終段階において、TPPの自動車原産地規則やメキシコの労働者保護が大きな焦点になった時期であった。レビン氏はこれら両方の問題で積極的に発言してきた人で、彼はメキシコがTPP に沿って労働法を改定するべきと主張し、同協定に自動車の原産地規則を盛り込むよう強く要求している。

労働者保護に関して、レビン氏は、メキシコの調停・仲裁停委員会(CAB)に腐敗が存在すると言われている問題に対処し、経営側と、経営者が支配する労働組合との間の「保護協約」の利用を廃止する拘束力ある文言をTPPに入れるよう求めてきた。同氏のこの訴えは米労働組合総連盟・産業別会議(AFL-CIO)を含む米墨の労働組合の支持を受けている。

自動車の原産地規則は7月のTPP閣僚会議で大きな障害として浮上した。同会議でカナダとメキシコは、米日が作成した取り決め案を拒否した。これらの国は、日米の取り決め案がTPP外の自動車と同部品のコンテンツが大きな割合を占める自動車、同部品を関税引き下げの対象にしているとの理由で、受け入れられないものとみなした((Inside U.S. Trade, 8月7日)。

閣僚会議のあとレビン氏は自動車の原産地規則について、TPP交渉で解決しなければならない「重大な問題」の一つとして言及し、「自動車貿易における真の互恵主義と強力な原産地規則」を求めた。

メキシコとカナダは、米日が合意したものよりもより高度な自動車および部品の地域的価値をめざしている。日米の合意では地域調達率を自動車で45%、自動車部品で30%を出発点とした。北米自由貿易協定は自動車、軽トラックについてはエンジンと変速装置とともに62.5%を起点とし、他の自動車部品の地域コンテンツ60%を求めた。

Inside U.S. Trade紙から。仮訳提供:TPP阻止国民会議
http://insidetrade.com/short-takes/levin-takes-fact-finding-trip-mexico-tpp-talks-final-stages