アトランタ閣僚会議での「大筋合意」について、TPP阻止国民会議より事務局長コメントです。

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アタランタ閣僚会議での「大筋合意」を受けて

2015年10月6日
TPP阻止国民会議事務局長 首藤信彦

9月30日よりアトランタで二日間の予定で開催されたTPP閣僚会合は、延長を繰り返し、10月5日朝(現地)閣僚共同記者会見を開き、「TPP大筋合意」が声明された。

しかしながら、連日のごとく報道機関を通じて断片的に報道されたバイオ製剤パテント期間をめぐる争いや、合意形成の障害として取り上げられた自動車・部品原産地問題さらにニュージーランドの強く主張する酪農産品市場開放などについて、どのような合意が12か国で形成されたのか言及なく、交渉結果については公開されなかった。

前回のハワイ会議よりわずか2か月後という、各国調整が進展していない状況での会議開催は日程的に無理があり、会場では「会議は日本が国内的都合で求めたもので、秋に臨時国会を開き農業支援などを予算化して来年の選挙に備えるため」という批判の声が圧倒的に多く、さらに「だから日本が譲歩して当然」「こんなに譲歩して日本にTPP参加のメリットあるのか」などという突き放した意見もあった。

共同記者会見直後に日本記者へのブリーフィングが行われたが、そこで配布された内閣府および農水省資料はほぼ同時にホームページに掲載されており、日本政府はアトランタにおいてはTPP交渉ではなく、これまでのアメリカとの二国間協議の追認を目論んでいたことがよくわかる。

5日深夜の記者会見を経て、6日朝より、用意周到に準備された大量の祝賀記事が流され、TPPへの架空・過剰の期待をあおり、一方で反対していた側には無力感が漂っているが、それは両方とも間違っている。今回たとえ本当に合意が成立したと仮定しても、それはあくまで「大筋合意」「原則合意」にすぎず、これから数か月をかけて短期の会議が積み残した国営企業問題、環境、国内制度改編、ISDS問題など深刻な課題の処理が急務となる。さらに現実に署名までの発効条件や法的整合性チェックなどが加わると、協定文をまとめる「最終合意」までは幾多の紆余曲折が予定される。

最大の難関は言うまでもなく、アメリカ議会の審議であるが、すでに多くの議員から「通貨操作禁止条項」の欠落が糾弾され、人権問題などに加えて、議会による承認(certification)プロセスの確立などの困難な関門が待ち構えている。すでにUSTRに対し、再交渉を求める声も上がり始めた。

そして実は皮肉なことに、アトランタ会議でUSTRフロマン代表が合意形成を強引にもとめたため、アメリカ自体が多くの妥協を迫られ(バイオ製剤のパテント期間を8年に縮小など)、結果的に、このTPP協定は一層、議会承認を得にくくなっている。

本来、5月末がオバマ政権下でのTPP条約発効期限と言われたが、すでに4か月を経過し、次期大統領選を経て、オバマ大統領任期中にTPP協定が発効するのは事実上不可能に近い。

問題はそれにも拘わらず、安倍政権はTPPの旗の下で、日本社会に深刻な影響を与える二国間交渉を秘密裏に進め、さらに「大筋合意」を根拠にこの秋にはTPP関連補正予算を組んで、来夏に予定される参議院選挙を有利に展開しようとしていることである。

これは国民に対する二重の裏切り行為としか言いようがない。今後も引き続きTPP協定の署名・発効までのプロセスを監視すると同時に、日本におけるそうしたTPPの名前を利用した政治の暴走と利権行為の広がりを阻止していかなければならない。