201606-tpp-shimbun-vol05-edamoto-inyaku-talk-1

TPPは食の安全を脅かす――当初から、影響が危惧されていた食の領域。政府は「TPPでは日本の現行制度は変わらない」というが、にわかには信じがたい。料理研究家と市民活動家、異なる立場から食をめぐる問題にアプローチしてきた二人に、TPPとその先にある食の危機について話を聞いた。

遺伝子組み換えはもはや時代遅れ

印鑰智哉(以下、印鑰) 協定文を読むと、TPPは遺伝子組み換え(GM)技術やGM企業が生き延びる道として用意された条約だということがわかります。というのも、TPP協定文に書かれていることが、2009年(※)にGM企業や医薬品企業による政治活動団体BIO(Biotechnology Innovation Organization)がアメリカ通商代表部に要求した内容と符合するのです。「TPP参加国はバイオテクノロジー農産物(GM農産物)を規制しないこと」「各国政府が基準を勝手に決めるのではなく、バイオテクノロジー企業が影響力を持つ国際的な機関が定めた基準に従わせること」「種子企業の知的所有権を尊重するUPOV1991年条約を批准すること」……GM作物の貿易量を増やすだけでなく、世界中の種子までも支配しようとしていることが見てとれます。

 GM技術は登場から20年が経ち、もう限界が見え始めました。除草剤耐性を持つGM作物は、農業を効率化するという謳い文句のもとで売り出されていますが、除草剤の効かない“スーパー雑草”が出てきてしまった。各地で反対運動が広がるとともに、今はGM企業の本拠地アメリカでも反対の声が大きくなり、GM作物の栽培は頭打ちとなっています。モンサント社は連続して大幅減収となり、リストラせざるをえない状況です。他のGM企業も同様で、6社あったGM企業は合併で3社になると言われます。このままではやっていけないんですよ。なんとか会社を続けるために、彼らが狙っているのがアジア・環太平洋諸国であり、TPPはそのための布石としか思えません。スーパー雑草を駆逐するために、ベトナム戦争のときに大きな被害を及ぼした枯れ葉剤を農薬に使おうとしているともいわれます。農薬の強さも使用量も増える一方で、残留農薬も増えていくでしょう。世界各地の人々が危険性や企業の嘘に気づき、変革しようとしている時に、なぜ日本はGM企業を擁護するTPPを進めようとするのか……甚だ疑問です。

201606-tpp-shimbun-vol05-edamoto-inyaku-talk-2

枝元なほみ(以下、枝元) 私は、料理の仕事を通じて、自然にGM作物の問題を考えるようになりました。きっかけになったのは、油です。菜種、大豆などGM作物がもっとも多く日本に入り込んでいるのが、油ですよね。今日本で売られている油の9割近くがGM作物を使った油だと聞いたこともあります。仕事柄、一日中それこそ100個くらいフライを揚げることがあります。そうすると、アシスタントの子たちは油の匂いに負けて気分が悪くなってしまいます。どうしてだろう、どうしたらいいんだろうと考えて、油を変えてみたんです。少し値が張っても品質のよい、ケミカルなものを使わずに作られた油に。もう全然匂いが違うの。気分が悪くなることがなくなりました。フツウの油は、GM作物を原料にして、さらにベンジンみたいな匂いのする溶剤を加えてできるだけ多く搾るようにしていますよね。安全性だとか健康被害とかの前に、食べ物が食べ物として成立していないんじゃないかと思うんです。

印鑰 今の枝元さんのお話は、まさに、料理を極めた方のリアリティある発信ですね。こうした発信を続ければ、日本でももっと多くの人にこの問題を知ってもらえるのではないかと思います。もうひとつ、GM作物には、タネの問題もあります。一部の企業によるタネの独占です。BIOは、種子は自家採取してはならない、企業から買うようにすべきだと言っています。彼らは、GM作物の栽培を広げると同時に、今、南の世界で7~8割を占める自家採取のタネを巻き上げたいと思っている。これに対して、ラテンアメリカでは大きな反対運動が起こっています。

201606-tpp-shimbun-vol05-edamoto-inyaku-talk-3

枝元 本当に、最低だと思います。常識的に考えて、おなかがすいている人がいて、手に食べ物を持っていたら、分けるでしょう? お金がなければこの食べ物あげないよ、なんていやだな。タネを買わなければ農業ができないって、そういうことですよね。食べ物だけでなく薬も同じ。TPOによって貧しい人は薬を買えないよ、という社会になってしまう。自分のこと、企業の利益しか考えない、そんな社会を作るためのTPPは、ふつうに考えておかしいと思うんです。

 なんなのでしょうね、この閉塞感は。おかしいことをおかしいと言えない空気が、今の日本にはあるみたい。だって、TPPのあの黒塗りの交渉資料も絶対変でしょう? 国会で情報開示を求めて出てきた交渉資料がすべて黒塗りで、何が書いてあるか全然わからないなんて! 自分で部屋を借りようってときに、あんなに黒塗りで契約しよう、って思いますか? ふつうにおかしいのに、いろいろ勉強してからでないと、何も言っちゃいけない……みたいな空気。でも、間違っても、変だと思ったら声を挙げていいと思うんです。 

印鑰 声を挙げられない。語られないから、問題を知る機会を得られない、同じ考えを持った人とつながることもできない。悪循環ですよね。今日本では個別に遺伝子組み換えでない油を選択することはできます。でも、学校給食やレストランには入り込んでしまっている。個別に選ぶだけでそれが広がらず公共の政策になっていかないのは、連帯による力が発揮されていないからだと思います。連帯できないのは、“知らない”からでしょう。じつは日本人って、世界でも一番GM作物を食べている部類なんですが、それを誰も語らない。だから納豆の大豆に「遺伝子組み換えでない」と書かれているのを見て、安心してしまっている。これを変えていくためには、とにかく情報を共有していくことが重要だと思います。

——-
まだまだ続く特別対談。このあと、話題は「社会が変わる転換点」について広がりました。

全文は、TPP交渉差止・違憲訴訟の会・会報「TPP新聞」vol.05(2016年6月発行)でお読みいただけます。会員・原告の方には無料でお届けしていますので、この機会にぜひ申し込みください!

▼会員・原告申し込みはこちらから
http://tpphantai.com/

▼「TPP新聞」vol.05目次はこちらから
http://tpphantai.com/info/20160603-tpp-shimbun-vol05/

枝元 なほみ(えだもと・なほみ)
劇団で役者をしながら無国籍レストランで働いていたが、劇団の解散後、料理研究家になる。料理本の執筆の他、料理番組への出演多数。また農業支援団体チームむかごを立ち上げ、現在は社団法人「チームむかご」代表理事。東日本大震災の後、同法人で被災地支援の活動も行う。

印鑰 智哉(いんやく・ともや)
(株)オルター・トレード・ジャパン政策室室長。アジア太平洋資料センター、JCA-NET事務局長、Greenpeaceなどを経て現職。市民社会が抱える問題全般を追うが、とくにブラジル、南米関係を専門とする。ドキュメンタリー映画『遺伝子組み換えルーレット』の翻訳監修を担当。

※「TPP新聞」vol.05では、「1991年」と記載されていますが、「2009年」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
本記事は、TPP交渉差止・違憲訴訟の会・会報「TPP新聞」vol.05(2016年6月発行)より転載いたしました。

photo: Hirotomo Onodera