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裁判長が交代したことが裁判当日に判明。裁判所から事前通知なし

 2016年11月14日(月)、TPP交渉差止・違憲訴訟の第6回口頭弁論期日が東京地方裁判所103法廷において開かれ、200名近い傍聴希望者が門前集会に集まりました。

 前回、7月20日に開かれた第5回口頭弁論期日で、松本利幸裁判長は、「これまでの主張立証を踏まえて、次回、弁論の終結を含めて判断する」と発言していました。これは、次回で結審するというメッセージだと受け止めざるをえない状況でした。

 弁護団は、裁判を打ち切らせないために、何度も会議を開いて戦略を練り、第6回の期日に臨んでいました。しかし当日、裁判の前の門前集会の最中に、何と裁判長が交代したという情報が入り、中村さとみ裁判長に代わったことが明らかになりました。弁護団は、裁判が始まる直前に急遽会議を行い、再び戦略の立て直しを行いました。

裁判官が代わった時には、これまでの口頭弁論の結果を陳述しなければならない

 通常、裁判長が交代した時には、これまでの審理の結果を確認するため、更新手続きの期日を入れる場合があります。民事訴訟法の249条2項には、「裁判官が代わった場合には、当事者は、従前の口頭弁論の結果を陳述しなければならない。」と書かれており、裁判所はこれを拒否することはできません。日本の民事訴訟は、直接主義、口頭主義を重視し、法廷での口頭のやり取りを聞きながら心証を取る、自由心証主義が建前となっているためです。

 弁護団の辻恵弁護士は、法廷が始まると即座に更新意見を述べるための期日を入れるよう申し入れました。辻弁護士は、「裁判長は10月24日に交代したと聞いた。わずか20日間しか裁判長に就いていない方が、これまで1年半かけてやってきた全体像をつかみきれているとは到底思えない。きちんと期日を設けて、もう一度私たちの更新意見を聞いていただくのが責務だ」と述べ、これまでの経過や意見を、新しい裁判長に直接受け止めることを要求したのです。


更新手続きを経ずに、先の弁論手続きを進めることはできない

 しかし、裁判長は、「(これまでの裁判の)記録は引き継いでいる。(更新意見を)口頭で述べるなら今陳述を」と要求。それに対して、辻弁護士は、「裁判官が交代したら、弁護団に『更新手続きはどうするか』と問いかけがあってしかるべき。ところが今回、一切通知がなかった。即興で述べれば済むという問題ではない」と応じず、準備期間を設けたうえで更新期日を入れ直すことを求めました。

 裁判長は、合議のために休廷した後、「更新手続きの機会は別に設けるが、今日せっかく用意した準備書面が無駄になるので、そちらの弁論手続きを進めたい」と伝えてきました。弁護団は、異例の休廷を求め、急遽打ち合わせを行いました。

 再開後、山田正彦弁護団共同代表は、「法律的にきちんと更新手続きがされなければ、今日用意していた準備書面の陳述と証拠申請はできない。更新手続きがされていない以上、訴状もこれまでの準備書面も、事実上、陳述扱いになっていないのと同じ。したがって、これ以上の手続きを進めることはできない」と、裁判長の要求を拒否しました。また、「我々は、裁判官が変わったことは先ほど知った。これは裁判所のミスだ」とも付け加えました。


弁護団の主張が聞き入れられ、次回期日で更新手続きをした上で次の弁論へ

 その後も、裁判長は、「当事者の一方(被告)から、従前の口頭弁論の結果は陳述とされているので、従前の口頭弁論の結果は陳述されていると理解している」などと応じませんでしたが、辻恵弁護士は「それは詭弁だ。被告が更新を従前通りでいいと言ったからといって、原告の権利が喪失されるはずがない」と指摘し、更新手続きの期日を入れ直すよう強く迫り続けました。

 1時間近い攻防の末、裁判長は弁護団の要求をようやく聞き入れ、次回の期日で改めて更新手続きを行った上で、今回用意していた準備書面などの手続きを進めることとなりました。原理原則に立ち返って押し切った弁護団の主張が認められた格好です。

 報告集会で、辻恵弁護士は「新しい裁判長との初戦は勝利と言えよう。被告も、『前の裁判長は今日で結審する予定だった。次回期日での終結を求めたい』とアピールしていたが、それはあくまで被告の意見であり、我々は次回、更新手続きを経た上で改めて審理を求めていく」と力を込めたました。


「裁判を受ける権利」「裁判の公開」が守られた。司法府に違憲判断を迫ろう

 岩月浩二弁護団共同代表は、「今日の法廷で守られたものがあるとすれば、憲法32条『裁判を受ける権利』と、82条『裁判の公開』(裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う)だ。ほとんどの民事訴訟が法廷で何をやっているのかわからないなか、まさに公開の法廷で裁判を受ける権利を保証する闘いとして非常に貴重だった」と話しました。

 TPP交渉差止・違憲訴訟の会の池住義憲代表代行は、「今日は手応えを感じた。自衛隊イラク派兵差止訴訟でも、裁判長が交代し、揉めたが更新手続きを入れさせた。その後も渾身の裁判を繰り広げ、名古屋地裁の違憲判決に結びついた。今回の裁判でも、私たちの権利侵害の実情、実証を新しい裁判長に陳述していこう。立証に必要な証拠や証書を出し、参考人や本人陳述を勝ち取り、司法府に憲法判断を迫ろう」と呼びかけて結びました。

 次回、第7回口頭弁論期日は、1月16日月曜日14時30分から2時間の予定です。最初の45分は更新弁論に充てられ、そのうえで、今回準備していた弁論の陳述を1時間行います。

▼TPP交渉差止・違憲訴訟 第6回口頭弁論期日 報告(PDFファイル/15ページ)
法廷でのやりとり、報告集会の詳細を記載しています。

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