2023年3月24日、東京地方裁判所で下された種子法廃止違憲確認訴訟の判決は、不当にも棄却・却下。4月6日、原告団は控訴しました。第一審の判決には納得できませんが、判決文には原告の主張を受けて踏み込んだ表現も見られ、争点は絞られてきました。弁護団共同代表・田井勝さんにポイントを聞きます。
権利侵害は発生していない?地裁の不当判決は認められない
「種子法廃止等に関する違憲確認訴訟」は、「食料への権利」は憲法で保障された私たちの権利であり、主要農作物種子法(以下、種子法)の廃止はその権利を侵害するとして違憲無効であると訴えてきたものです。しかし、東京地裁の判決は、原告の切実な訴えを不当にも棄却・却下(※1)しました。
「食料への権利」とは、誰でも、いつでも、どこに住んでいても、人が健康で生きていくために必要な食料を得られる権利のことです。国連で採択された世界人権宣言25条や日本が批准する国際人権A規約11条1項でも規定されています。この裁判で被告である国は、日本には「食料への権利」は存在しないとしてきましたが、私たちは憲法前文や憲法25条(生存権)、あるいは憲法13条(幸福追求権)に当然含まれていると主張してきました。
判決の中で、〈憲法25条1項にいう『健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』の実現に向けては、一定程度の衣食住の保障が必要となることは否定できない〉として、「食料への権利」が憲法上認められる余地があると示されたことは、大きな前進です。
それにもかかわらず、種子法は食料増産達成という政策達成のために制定されたものであり国民の権利を具体化したものではないとして、東京地裁は種子法廃止による「食料への権利」の侵害は存在していないと判断しました。これは根拠不十分で非常に不当な判決です。
そもそも種子法は単なる食料増産にとどまらず、戦後において国民の飢餓を防ぐために制定されたはずです。良好で安全な農作物を提供し、飢餓を防ぎ、生命を守る種子法こそ、国民の「食料への権利」そのものと言えます。東京地裁には、この事実にきちんと向き合い、踏み込んでほしかった。
高裁での争点は一点に絞られた。争う余地は十分にある
その一方で、原告のうち採種農家である菊地富夫さんについて、種子法廃止によって父親の代からほ場指定されてきた地位を喪失したことから、〈現実かつ具体的な危険または不安が認められる〉として、「確認の利益」(※2)が認められるなど評価できる点もあります。
国は、菊地さんが山形県の種子条例によって指定種子生産ほ場に指定されているから問題ないという主張をしていました。しかし、判決は、条例と法律に基づく地位は同視できるものではないとし、種子生産・普及に必要な財政措置が条例によって種子法同程度に保障されているとは認められないとしました。つまり、種子法廃止によって財政基盤が弱められたとはっきり認めているのです。
敗訴ではありますが、判決文を読み込んでいくと、種子法に基づく権利性以外のところでは私たちの主張が多く認められています。すでに私たちは控訴していますが、控訴審での争点は「種子法に基づく国民の権利性があるかどうか」の一点に絞られており、争う余地は十分にあると感じています。
控訴審の第一回期日は夏以降の見込みですが、それまでに種子法制定当時の過程や、その後の改正審議などを調べ直し、新証拠を集めて「種子法に基づいて食料への権利があること」を強く訴えていくつもりです。例えば今回の判決文には、食料への権利を規定した世界人権宣言などと種子法の制定には関係がないと書いてありますが、1951年に署名されたサンフランシスコ講和条約の前文において、日本は「世界人権宣言の目的を実現するように努力します」と書いています。1952年に種子法が成立したことを考えると、種子法は世界人権宣言を意識して制定されたと言えるのではないかと考えています。
高裁の裁判官にとっては一からの審議になるわけですから、いま一度原告の皆さんの思いを伝えていくことも重要です。種子法廃止違憲訴訟を続けていくことは、種子と食料の安定供給や安全の重要性を国や自治体に意識させることにもつながります。ぜひ皆さん、控訴審でも一緒に闘っていきましょう!
※1: 種子法廃止による権利侵害は存在していないとして、原告・菊地さんの訴えは棄却。一般農家の館野さんと、消費者の野々山さんについては確認の利益が認められず却下した。
※2: 現実的かつ具体的な危険または不安の解決のために、裁判で原告・被告間の法律関係についての審議や判決を求めることが必要な地位にあるかどうか。
プロフィール
弁護団共同代表
田井勝(たい・まさる)
1975年生まれ。香川県高松市出身。京都大学法学部卒業。2007年弁護士登録、横浜合同法律事務所所属。TPP交渉差止・違憲訴訟の会弁護団共同代表、建設アスベスト訴訟神奈川弁護団事務局長、自由法曹団神奈川支部事務局長。
Text: Mie Nakamura