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2015年8月21日(金)、東京地方裁判所にTPP交渉差止・違憲訴訟の第二次提訴を行い、同日記者会見を行いました。第一次提訴の1,063人(現在1,055名)に第二次提訴の527人が加わり、原告は合計1,582名となりました。訴訟の代理人は、弁護団157名です。

記者会見で、代表の原中勝征は「国民の暮らしを崩してしまうような協定がなぜ必要なのか疑問だ。何としても将来の子どもたちのために訴訟をしなければならないという信念だ」と表明。第二次原告を代表し、NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長の赤城智美さんは「食物アレルギーの患者は、表示を頼りに食品を選んでいる。私たち自身が食の危険にさらされるということが目前に迫っていると感じ、危惧している」と話しました。

弁護団の辻恵弁護士は、請求の趣旨は①TPP交渉の差止、②TPP交渉の違憲確認、③国家賠償の3点であることを説明。「グローバル企業の利益優先に国民の基本的人権が従属され、侵害されるということが一番の問題点。生存権(憲法25条)、幸福追求権(憲法13条)で保障されている権利が具体的に侵害されるということを、原告の方々や意見陳述や証言に基づいて明らかにしていく。広く国民運動の一環として、国民の声が反映されるように弁護活動をしていきたい」と話しました。また交渉経過が国会議員にさえ明らかになっていない点について、「国権の最高機関である国会(憲法41条)の機能を無視するような形で進められていることは極めて問題」とするとともに、外国投資家が国や自治体を訴えることができるISD(投資家対国家紛争解決)条項は、「司法機能が裁判所にあることを定めた司法主権(憲法76条)を侵害し、三権分立の基本構造を破壊するものだ」と述べました。

7月のハワイ閣僚会合に往訪した幹事長の山田正彦は、大筋合意できなかった原因について、「日本の報道ではニュージーランドが悪者にされていますが、最後に問題になったのはメキシコ。自動車部品の原産地規制で日米合意の水準を受け入れらなかったことが引き金となった」と述べました。また、日本だけがカードを切ってしまったことについて「日本外交の大失態だ。自民党政権は『TPP断固反対』として選挙を勝利しながら、こういう形で国民の人権を踏みにじっている。TPP交渉は明らかに違憲であり、年内には第三次訴訟を予定して、何としても司法に問いたい」と表明しました。

▼TPP交渉差止・違憲訴訟 第二次提訴報告(PDFファイル)

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<記者会見録>

「TPPは私たちの平和的生存権、知る権利を侵害する」

原中勝征(代表/前日本医師会会長)

私たちは、第一次提訴で1,063人(現在1,055名)の原告が訴えを起こしましたが、今回、さらに527人の原告が加わることになり、第二次提訴をすることになりました。TPPというものは、日本の国全体を根本から崩してしまうものです。憲法があっても、TPPの方が上に来るというような形で、国民の主権が侵されますし、食の安全、医療、食料さえも危ぶまれるというような問題に対して、私たちは何としても将来の子どもたちのために訴訟をしなければならないという信念でいます。

私たちは、憲法に反するTPP交渉をしてはならない、交渉をしていること自体も憲法違反である、ということを全面に闘っていきます。こうした独立性を無視したような、国民の暮らしを崩してしまうような協定が、なぜ必要なんだということを疑問に思っています。

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「食の危険にさらされるということが目前に迫っている」

赤城智美(原告/NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長)

私たちは、食物アレルギーのアトピー性皮膚炎の患者さんからの電話相談を中心に活動しています。また、食物アレルギーの表示に関する食品回収についての情報を毎日配信しており、食物アレルギーの方が表示を見て誤食してしまったり、何らかの形で誤食したという事故事例を集めてみなさんにお伝えしたりしています。

私が今回この訴訟に参加しましたのは、自分自身も食物アレルギーの患者でして、表示を頼りに食品を選んで事故がないように暮らしておりますが、表示ミスが起これば誤食してしまい、私自身は呼吸困難を起こしたことも何度かあるからです。子どもたちにとっては、呼吸困難だけでなくて命を脅かされるような事故に遭うことも間々あるのです。

日本の食品表示というのは世界のなかでも最先端を行く表示の仕組みを持っていまして、アレルギー表示が義務化されたのは2000年ですが、それ以降、この15年をかけて食品表示による事故を起こさないということを、患者も市民も、企業も行政も取り組んできました。このように日本は、表示で事故を起こさないようにがんばっていますが、それでも日々事故が起こっている状況のなか、何とかして安全な食品を食べるということが日々課題になっているんです。もし日本が、世界の標準に(表示制度などを)合わせなければならないような事態が起これば、今の日本の優れた検知技術や表示の法律というのが役に立たなくなってしまいます。私たち自身、食の危険にさらされるということが目前に迫っているということを感じていて、非常に危惧しています。そうした思いで、みなさんのこの活動に共感し参加しました。

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「グローバル企業の利益優先に国民の基本的人権が従属され、侵害されるということが一番の問題点」

辻恵(弁護団/弁護士)

5月15日に1,063人(現在1,055名)の原告により、第一次提訴を行いました。第二次提訴の原告は527名で、基本的な内容は第一次提訴と同じです。合計1,600名弱の人たちがTPPの交渉差し止め、違憲確認、損害賠償という訴訟を提訴していることになります。さらに第三次、第四次と、原告が広がっていくであろうと、国民の広がりを期待しておりますし、東京地裁だけでなくて、全国で各地域で提訴が準備されると聞いておりますので、それが具体化することを願っています。

本訴訟は、9月7日に午後1時30分から第一回口頭弁論期日が開かれます。その場で訴状の概要を陳述し、原告のなかから3名ほど意見を陳述していただきます。通常の訴訟では、訴状や準備書面の内容を要約的にでも法廷で陳述することがなく、ただ書面の交換で終わるということが間々あります。しかしこの訴訟は、そうした訴訟の手続きをとりますが、日本の国民の基本的権利が侵害される重大な問題を広く国民運動の一環としての訴訟として提訴しています。そういう意味で訴訟のあり様についても、原告のみなさん、多くの国民のみなさんの声が具体的に訴訟の場に反映されるよう、実現したいと思っています。

請求の趣旨は3点です。第1項はTPP交渉の差し止めです。TPP交渉は、先日のハワイの閣僚会合でも結局まとまりませんでした。まだまだ流動的でどうなるかわからないというなかで、裁判所にぜひとも交渉の差し止めの決定を下していただきたいというのが請求の趣旨の第1項です。第2項は、TPPの協定の内容が憲法違反である、だから違憲を確認してほしいというものです。第3項は、TPPの締結によって国民の基本的人権が侵害されるということに対して、国家に対して損害賠償を請求する権利がそれぞれの原告に帰属しているということで、国家賠償法による損害賠償請求を立てています。

TPPは、グローバル企業の利益優先に日本の国民の基本的人権が従属され、侵害されるということが、基本的な一番の問題点であろうと思います。憲法25条で生存権が、憲法13条で幸福追求権が保障されています。その具体的な権利はさまざまな分野にわたっています。TPPは21分野あるといわれ、それは医療や食品、その他のさまざまな分野にわたっていますので、それぞれの分野のなかで国民の権利が具体的に侵害されるということです。この21分野にわたる多くの被害を受ける原告の方々の声を、この訴訟のなかで反映させ、13条、25条の憲法違反の実態を具体的な証拠に基づき、原告の方々や意見陳述や証言から明らかにしていきたいと考えています。

このような基本的人権を侵害する条約が、憲法の41条や76条に違反する形で進められているということも問題です。憲法41条は、国権の最高機関として国会が立法機関として定められていますが、TPPの交渉経過は国会議員にさえ明らかになっていません。国会において条約が締結されれば、それに基づいて具体的に法律化することが必要ですが、さまざまな法律を立法する国会議員に情報が知らされないままでは、まさにこれは国権の最高機関として国会の機能を無視するような形で進められているということで、極めて問題です。

またTPPは外国の投資家の利害を優先するがゆえに、ISD(投資家対国家紛争解決)条項によって、日本の国や自治体に対して直接の訴訟を起こすことができるということになります。日本では権利、義務に関わる法律的な紛争というのは、裁判所が司法機関として判断をする(憲法76条1項)という構造になっていますが、それが全く無視されてしまいます。日本の裁判所の司法機能を通り越して、外国の企業が国や自治体に対して、しかもそれは仲裁手続きということで、司法手続きに乗らないで決定されてしまうということは、日本の三権分立の基本構造を破壊するものです。国権の最高機関である立法権能を無視し破壊する、また司法の権能も無視し破壊するというなかで、13条、25条の国民の基本的人権が侵害されるということを意味し、これは極めて由々しき問題だと思います。条約の締結にあたっても、事前の情報の開示がないということで、憲法21条(知る権利)にも違反するということも含め、訴状の骨格を立てています。

裁判というものは具体的な争訟が前提となりますので、原告の的確性がどうあるのか、違憲確認や交渉差し止めという請求に対し、具体的な権利性がないのではないかということで、門前払いをされかねない訴訟であるということは現実問題として横たわっていますが、だからこそ、一人一人の原告が基本的人権を侵害され、それによって精神的損害を受けているということの証拠調べが必要であるとして第3項の国家賠償の項目を立てています。

これまでの日本における違憲訴訟のなかで、自衛隊イラク派兵差止訴訟において、平和的生存権を基礎に具体的な差し止め等の権利性があるという判例が、2008年に名古屋高裁で出ています。私たちはそれをもっと押し広げるような形で、しっかりとした弁護活動を行って参りたいと思っています。

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「閣僚会合で日本だけがカードを切ってしまった。日本外交の大失態だ」

山田正彦(幹事長/元農林水産大臣)

7月のハワイ閣僚会議で、各国のNGOとの意見交換とデモを行って参りました。それまで日本の報道では、7割はほぼ大筋合意をめざしているとの話でしたが、実際にハワイに行ってみるとカナダにしてもほとんど譲歩しませんでした。そうなると、アメリカはニュージーランドに対して切りかけた関税交渉のカードを取り下げました。日本ではニュージーランドだけが悪者にされているようですが、現地でのNGOからの話によれば、米通商代表部(USTR)のフロマンさんにしても、途中でオリン・ハッチ米上院財政委員長から電話がかかってくるなどして、医薬品のデータ保存期間をアメリカは12年を譲ってはならないという状況でした。各国のNGOやオーストラリアなどから聞いた話では、医薬品のデータ保存期間は新興国から結局0~2、3年という提案がされるような状況で、日本で報道されているような各国は5年でアメリカは12年、日本は7、8年というような状況ではありませんでした。

じつは最後に問題になったのはメキシコです。問題は自動車部品の原産地規制で、自動車を組み立てる際の部品を、アメリカは7割をTPP12カ国で生産していないとダメだと言っていました。日本は4割を主張したらしいのですが、55%ぐらいで何とか日米合意しそうになったとき、世界で4番目の自動車輸出国であるメキシコが、「NAFTAでは65%の原産地規制があった。55%などというのは到底受け入れられない」と言ったのです。メキシコがこの話を聞いたのも閣僚会議30分前だということです。これが最後の引き金となり、翌31日の午前中からの閣僚会議が動かなくなってしまったのではないでしょうか。

しかし日本側は、8月や9月、年内に何とか妥結したいと色々言っているようですので、まだ予断は許しません。しかも日米並行協議がされていますし、これがどういう形になるのかということもあります。今回、日本だけが前のめりで、日本だけがカードを切って、他の国はカードを全く切りませんでした。これは日本外交の大失態だと思っています。自民党政権は「TPP断固反対」として選挙を勝利し、また「ISD条項反対」とはっきり公約でも掲げながら、このような形で国民の人権を踏みにじっています。米韓FTAでも、法律そのものを書き換えなければならなくなったような状態です。この訴訟で、そうしたTPP交渉は明らかに違憲であることを訴えるとともに、第三次訴訟を年内に予定して、何としても司法に問いたいと考えています。

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