TPP交渉「大筋合意」を受けて
平成27年10月8日
TPP交渉差止・違憲訴訟の会
弁護団共同代表 弁護士 山田 正彦
同 弁護士 岩月 浩二
9月30日から10月5日(現地時間)にかけて、米国ジョージア州アトランタ市で行われたTPP交渉閣僚会合の最終日、交渉参加12か国は、TPP交渉が「大筋合意」されたことを発表しました。
閣僚声明は、TPPが「世界経済の40%近くにより高い基準をもたらす」ものであり、「各国間の貿易及び投資の自由化に加えて」、「各国のステークホルダーが直面する課題に対処」するものであると主張しています。しかし、TPPが「貿易及び投資の自由化」の名の下に、日本を含む締約国の人々に多大な損害を与えるものであることは、これまで私たちがTPP交渉差止・違憲訴訟を通じて訴えてきた通りです。
今回の「大筋合意」の内容は、交渉に参加した閣僚らが発表した「環太平洋パートナーシップ協定の概要」及び政府の内閣官房TPP政府対策が発表した「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要」に記載されています。市場アクセス交渉の結果を見ると、コメに関して米国と豪州に対して新たに7万8400トンの輸入枠を与え、砂糖に関して精製用原料糖の関税を無税とし、牛肉・豚肉の関税を大幅に引き下げるなど、重要5品目を守ることを要請した衆参両院の農林・水産委員会決議がないがしろにされています。また、市場アクセス以外の分野では、「合理性」、「客観性」、「公平性」や「透明性」といった言葉を隠れ蓑にして、医療、食の安全、雇用、教育、公共事業や知的財産権などの領域で、我が国が国民の利益を守ることが困難になるような制度の導入を可能にする取り決めがなされています。投資家が国を仲裁にかけるISDS条項も、農林・水産委員会決議が求めた濫訴防止の工夫がなされているとは言い難い状況です。
私たちは、このようなTPP協定を政府に締結させるわけにはいかないと、改めて確認したところです。
現時点のTPPは、あくまで「大筋合意」がなされたにすぎず、今後は、閣僚会合で解決されていない課題の交渉、そして具体的な協定文をまとめる交渉が行われる予定です。それには数か月の時間がかかるとも言われています。
また、協定文がまとまった後は、各国での批准手続きが待っています。既に米国では「通貨操作禁止条項」の導入要求、マレーシアの人権問題、医薬品のデータ保護期間を8年で妥協したこと(米国では12年)等の問題を巡り、多くの議員が反対を突きつけることが予想されています。また、議会承認を得る前に大統領選挙期間に突入し、TPPを発効させることが長期にわたって不可能な「塩漬け状態」になります。カナダでは、10月の総選挙で現政権が敗北し、議会承認が得られなくなる可能性が指摘されています。
そして日本でも、来年の通常国会で承認手続きが進められると予想されますが、夏の参議院議員選挙への影響を指摘する声が上がりつつあります。
今回、政府は、国益を犠牲にした一方的譲歩を重ねてまでも、他の交渉参加国を「大筋合意」に誘導しました。その背景には、形だけの「大筋合意」であっても、TPPという大義名分を作ってしまえば、「TPPに対応するため」、「TPPによる影響を緩和するため」といった名目で、法制度を改変したり、バラマキ予算を組むことができるという事情があるとも指摘されています。
現に、政府は、TPP交渉と歩調を合わせるように、外国人の単純労働者の受け入れを可能にする国家戦略特区法改正、労働者を使い捨てにすることを可能にする派遣法改正や外資による病院経営を可能にする医療法改正等を推進しています。
今後も、このようなTPPに便乗した施策が次々と現れることが容易に予想されます。TPPを隠れ蓑にした政府の暴走を阻止しなければなりません。
私たちは、引き続きTPPが我が国にもたらす被害を広く国民の皆様にお知らせするとともに、今年5月に提起したTPP交渉差止・違憲訴訟を通じ、政府によるTPP協定の交渉と締結を止めるべく全力で活動を続けてまいります。
以上