TPP阻止国民会議より、TPP協定最終原案の公表についての事務局長コメントです。
TPP協定最終(?)原案の公表を受けて
2015年11月6日
TPP阻止国民会議
事務局長 首藤信彦
昨夕(11月5日)TPP協定最終(?)原案なるものが、ニュージーランド政府からサイトに公表された。付属文書を伴う1000ページに達する膨大な協定案であり、各方面で30章の各章にわたる精査が一斉に始まった、と同時に、そこに込められた危険と脅威にTPPへの懸念と反発がTPP参加各国内で巻き起こっている。
この原案なるものに最初の疑義とコメントをしておきたい。
1.TPP協定原案の確実性・正当性
アメリカ議会・国民への提示ではなく、ニュージーランド政府から提出されたものにどれだけの正当性があるのかは、現時点では不明である。はたしてこれがオバマ大統領がアメリカ議会に署名許可を求め、そして90日後に署名することになるTPP協定案なのかはもう少し時間をかけなければわからないだろう。
2.TPP協定正文は日本語ではない
本協定は英語スペイン語フランス語を等しく正文とするとあるが、アメリカに次ぐ貿易大国である日本の言語はなぜ正文に入らないのか?これはNAFTAではない。TPPの内容の多くは日本が一義的に関係するものであり、その国の言語が正文にもならないということは、日本法・日本の行政・社会制度がこの協定に正しく反映されない危険がある。それは単に国の面子だけではない。このような前代未聞の屈辱外交を続けてきた日本政府の姿勢は厳しく糾弾されなければならない。TPP協定の大宗に関係する日本の言語が正文とならない国際協定は無効である。
3.日本政府配布の「TPP協定全章概要」について
1000pの英語原文を翻訳せず(十分な時間があったはず)、日本政府は「TPP協定の全章概要」なるものを、事前に自民党および有力メディアに配布した。その内容は
(1)TPP協定全章概要…97p
(2)別添(改善項目、留保項目などのリストおよび付随書など)…84p
(3)TPP協定に伴い法律改正の検討を要する事項…32p
である。
協定全章概要はまさに、「抄訳概要」であって、具体性に欠け、何が争点で、一体何が決まり、どのような影響が予想されるかをそこから理解することは困難である。一刻も早い全文詳細訳および付随文書(サイドレター)の公開を求める。これなくしては国会審議や予算質疑に応じるべきではない。
このうち(3)は政府が以前、国民向けに公表したTPP関係18の交換公文リストの内容説明文であるが、ここに米国向けのコメの国別枠における売買同時契約方式(SBS)の内容も含まれている。
さらに、ここに4件の自動車関連交換公文が含まれているが(注)として「これらの書簡は、法的拘束力を有するものではない」とある。では何なのか?
ここは日米並行協議が関係するところであり、これがTPPとどのように一体化するのか大きな疑問符が付くであろう。
4.「TPP協定に伴い法律改正の検討を要する事項」は深刻な内容
上記(3)の問題であるが、ここが日本社会が最も深刻な直接影響を受ける部分であるが、さらに「自動車の非関税措置に関する書簡」においては、TPP協定が発効する前に日本政府が実施しなければならない非関税措置等が明記されている。これ自体、異常なことであるが、この条項は、TPP問題の残された重要課題である例の“Certification”(米議会による承認)と深い関係を持つ問題である。日本が署名し、TPPが発効しても、TPPにおける特典は日本に対して付与されない可能性を秘めている。
5.日本は主要課題および争点のほとんどを譲った。ならば得たものは何か?
すでに一部はメディアでも取り上げられているように、日本はこれまで争点として挙げられた問題のほとんどを譲歩した。聖域関税を一応形式的には守っても7年後の改定が想定されており、自動車関連もアメリカ・カナダが有利なように決まり、さらに日本国内市場においては、これまで厳しく問題が指摘されてきたアメリカ車の安全基準も緩和されることになった。簡保保険などを含めアメリカ企業・業界の要請をほとんど飲んだと言っても過言ではない。その詳細は今後明らかになっていくであろう。
ならば、一体、日本はTPP交渉で何を獲得したのか? 長年、TPPを称賛し推奨してきた日経新聞一面には、TPPで海外滞在ビザが緩和とある。それがどうしてトップ記事なのか?
TPP交渉で一体何を得られたのか、得られる可能性があるのか、その検証も急がなければならない。
6.透明性
最後に、今回のTPP交渉最終(?)原案公開によって、これまで6年間にわたって要求してきた条文の公開がついに実現した。これは10月5日のアトランタ閣僚会合から一月もたって何の合意も公表されずフラストレーションの高まる米議会対策であるとはいえ、公開はそれなりの価値を持っている。少なくとも、我々が危惧してきた点が「現実にある」ということが明らかにされた。今後は、現実に存在する問題と脅威をもとにTPPを議論していくことが可能となった。その第一歩である今回の公開を祝したい。