2016年4月11日(月)、TPP交渉差止・違憲訴訟の第4回口頭弁論期日が東京地方裁判所103法廷において開かれました。
前回の期日で、弁護団が訴えの変更(※)申立てを行ったのに対し、被告は民訴法の変更要件を満たさないとの意見を出してきました。そのため弁護団は、さらに反論の意見書を提出。協定の「締結」とは、憲法に定められた内閣の条約の締結そのものとして特定されており、またTPP協定の内容の違憲・違法を争点とすることに変わりはなく、請求の基礎に変更がないことを訴えました。
この点について、裁判長は「判決で判断する」と述べたことから、辻恵弁護士は報告会で「実質的に請求の変更が認められたということだ」と評しました。
準備書面の陳述では、前回同様、原告本人の陳述は2分、代理人の陳述を含めて30分の時間が認められました。
※第3回口頭弁論期日で、3つの請求のうち2点を、①被告はTPP協定を締結してはならない、②TPP協定の違憲確認、に変更する申立てを行っていました。
政府の影響試算は恣意的な操作
まず、原告の東京大学教授・鈴木宣弘さんが、農業分野について陳述。政府は2015年末に出した影響試算で、日本のGDPは、前回出された全面的関税撤廃の下での3.2兆円の増加から、なんと13.6兆円の増加へと4倍以上に跳ね上がり、農林水産業の損失は前回の3兆円から20分の1に圧縮されました。この点について、「誰が見ても露骨な数字操作だ。恣意的に生産性向上効果を増幅することで、価格が下がってもコストが下がると仮定し、プラスの効果を水増ししたもので、操作すればいくらでも数字が作れる。こういう分野を専門にしている私が言うのだから間違いない」と陳述。「『対策をしたから影響なし』と本末転倒にし、影響がないように対策をとるから影響がないと主張しているだけのもの。このような根拠のない試算に基づいて影響がないと言うのは全くのごまかしだ」と断じました。
鈴木さんらによる試算によれば、農林水産業で1.6兆円の生産減少、全産業で3.6兆円の減少に及び、失業も80万人生じるとのこと。TPPで生じる価格下落を政策で救済するには、年間8,000億円、10年で8兆円の追加予算が必要になりますが、そのような予算は示されていません。国内対策をするから国会決議は守られたという主張も破綻しています。
「食の安全保障は国民の命の要であるにも関わらず、このままでは壊滅的な影響を受けることになる。安全・安心な食料を、必要なときに必要な量を国民に供給するという、国家として最大の責務が放棄されようとしている。国民の命に関わる重大な危機と言わざるを得ない」と訴えました。
最終的に悪影響を受けるのは国民
訴訟代理人の準備書面陳述では、まず和田聖仁弁護士が、TPPの「政府調達」に内包された「トゲ」によって、「自国の調達構造が変えられる」、「自国の伝統的な調達供給者が減少する」ことを指摘しました。
例えば、公共事業の入札などの「調達インフラ」において、「努力規定」として英語の使用を奨励していること、「調達の公正性」を確保するために、談合などの腐敗行為に対して厳しい措置が適用されることなどを列挙。さらに、「政府調達」章の附属書で定められた各国の調達基準額を比較すると、中央政府、政府団体では、日本が先進国の中で最も開放度が高いことを示しました。
続けて、和田弁護士は「国有企業」についても陳述。「国有企業」とは、国(公共)の支配下にある法人の行う事業を指すものであり、日本の場合には国民健康保険、共済健康保険、健康保険組合、国立、市立、離島などにある県立・私立病院、及び農畜産業振興事業団(alic)などの野菜、砂糖、畜産物の価格安定資金の事業もすべて含まれます。
政府は「国民皆保険制度は堅持する」と言ってきたが、「国有企業として、政府の関与が『非差別待遇・内国民待遇・最恵国待遇』、『非商業的援助が生む悪影響の規制』条項等により、投資家に不利益をもたらすとして攻撃を受けることが予想される。その結果、国民が安心して利用可能な安価で公平な医療制度が壊されることなる」と述べました。
薬価審議プロセスや農業、医療、国立大学、病院、交通機関などに出される補助金も、政府が自由に決められなくなる懸念がある。国有企業章はISDS条項が適用され、政府は莫大な損害賠償を求められます。その萎縮効果の結果として、国有(公有)企業のサービスを、順次民営化していくことになり、結果として利用料が高騰し、最終的には日本国民が悪影響を受けることになると訴えました。
著作権の保護期間延長は、国益に反する
続いて酒田弁護士が、TPPが著作権に及ぼす影響について陳述。まず、著作物等の保護期間の延長については、著作者の死後50年以上も経済的価値を維持している著作物はごく少数であり、保護期間を延長しても権利者の利益とはならなりません。また孤児著作物が死蔵されてしまう問題や、すでに我が国の著作物の国際収支は圧倒的に輸入超過となっていることなどから、保護期間の延長は、かえって国益に反すると訴えました。
また、著作権等侵害罪の一部非親告罪化については、二次創作が停滞する恐れがある点や、一般企業や個人が行う資料のコピーなど、悪質でない日常的な行為にまで恣意的に警察の介入がなされる可能性を指摘しました。
なお、今回の著作権改正法案には含まれていませんが、今後、もし追加的損害賠償や法廷損害賠償が認められる法改正が行われた場合、填補賠償原則に関し、我が国の法体系上認められないと考えられます。米国では、パテントトロールと称される企業が、特許権や著作権を侵害している企業を探し出し、その賠償金や和解金の一部を得る事案が増加している実態も示し、我が国での影響を及ぼす恐れを示唆するものであるとの指摘を行いました。
次回第5回期日については、7月20日に確定。報告会で辻恵弁護士は、「請求の趣旨変更を事実上認めさせ、原告の陳述を勝ち取り、次回期日を獲得した。よって、今日は基本的に勝利だ。主導権を握りつつあるが、決して油断してはならない。次回もプレッシャーをかけていこう」と呼びかけて閉会しました。
▼TPP交渉差止・違憲訴訟 第2回口頭弁論期日 報告(PDFファイル/30ページ)
法廷でのやりとり、報告集会の詳細を記載しています。
▼原告の準備書面/意見書/上申書(PDFファイル)
原告第9準備書面(訴えの変更に伴う請求の原因の整理)
原告第10準備書面(鈴木宣弘)
原告第11準備書面(TPPが政府調達に与える影響)
原告第12準備書面(TPPが国有企業に与える影響)
原告第13準備書面(TPPが著作権に及ぼす影響)
意見書(訴えの変更に対する国の意見に対して)
主張立証に関する上申書(2)