tppikenn_016

「更新弁論意見」を改めて陳述

 2017年1月16日(月)、TPP交渉差止・違憲訴訟の第7回口頭弁論期日が東京地方裁判所103法廷において開かれ、200名近い傍聴希望者が門前集会に集まりました。

 前回、第6回の期日では、事前の通知もなく突然裁判長が交代したため、弁護団はこれまでの審理の結果を確認する更新手続きの期日を入れることを要求。次の期日で更新手続きを行った上で、用意していた準備書面などの手続きを進めることになっていました。

 これを受け、第7回の口頭弁論期日冒頭は、更新弁論意見書の陳述から始まりました。まず原告代理人の酒田芳人弁護士が、訴訟における原告らの主張の概略を説明。TPPは日本国憲法が定める原告らの人権を侵害することを理由とし、TPPが各国間で署名された以降は「TPP締結の差止め」を求めていること、第24準備書面までの書面を提出し、TPPの交渉および締結によって人権侵害が生じると考えられる点について主張してきたことを述べました。

憲法が、グローバル企業の利益尊重原則に書き換えられる

 続いて、岩月浩二弁護団共同代表が、追加的な内容を更新弁論意見で陳述。「TPPの最大の問題は、貿易障壁を理由として、我が国の国内ルール全般を変更させるように作用することにあり、TPPによって日本国憲法の基本的人権尊重の原則は、事実上、グローバル企業の経済活動の自由尊重の原則に置き換えられるという、重大な憲法秩序の変容をもたらす」と述べました。

 その具体例として、TPPに組み込まれたWTOのSPS(衛生植物検疫措置)協定を挙げ、「人や動植物の健康保護を目的とする輸入制限措置に関するルールを定め輸入制限が認められるのは、有害性を裏付ける十分な科学的証拠がある場合に限られ、予防原則は採用されない。TPPでは、SPS協定の履行はより厳格なものになることは確実」と主張しました。

 また、外国投資家が期待した利益を得られない場合に、相手国を国際仲裁に訴える特権を認めるISDS条項によって、「外国投資家は国家を超える存在となる。日本国憲法は国民主権を基本原則としているが、ISDS条項が発動されるようになれば、外国投資家主権が原則となる」と述べました。

原告の権利は、今まさに蹂躙されつつある

 岩月弁護士は、食の安全について、アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長の赤城智美原告の準備書面を引用。「日本のアレルゲン表示は、国際的にも厳しい基準の表示義務を課しているが、TPP協定第8章『貿易の技術的障害』の小委員会や日米作業部会で改廃を迫られる可能性が高い。食物アレルギーを持つ原告赤城およびその長男の健康に対する権利、安全な食品の提供を受ける権利、人格権としての知る権利が侵害される可能性は極めて高く、違法に深刻な精神的損害を与えている」と主張しました。

 また、医療分野については、国立病院機構北海道がんセンター名誉院長の西尾正道原告の準備書面を引用。同原告は、「米国は日本に対して、繰り返し薬価決定制度に圧力をかけてきた。製薬企業はTPP締結に向けて巨額のロビー活動費を費やしており、TPP協定第26章『透明性及び腐敗防止』などを通して薬価高騰を招く。公的医療保険制度の崩壊という深刻な事態を招くことになる」と指摘しています。「所得格差が医療格差に直結することを意味し、国民の幸福追求権(憲法13条)及び生存権(25条)を直接的に侵害する」と断言しており、「医療従事者としての原告にとって、耐えがたい精神的苦痛をもたらす」と主張しました。

 さらに岩月弁護士は、TPPが国会承認されたことを受け、「原告らの法的利益が侵害される可能性はいっそう切迫したものとなった。TPPが発効しないとしても、非関税措置に関する日米並行2国間協議の結果については、被告自身の政策として進めようとしている。米国企業が、規制に関わる各種の審議会において、より直接的影響を及ぼすことが合意されている」ことも指摘。「そうした過程に、国民を代表する国会が関与することはできない。原告らの知る権利や安全な食品の提供を受ける権利等は、今まさに蹂躙されつつある」と述べ、更新弁論意見としました。

tppikenn_005

被告は誠実に主張・反論を尽くせ

 続いて酒田弁護士は、被告が原告らの主張に対して「訴えの利益がない」「被侵害利益がない」などの形式的、抽象的な反論に終始し、具体的な事実関係や問題点の指摘について一切反論していないことに触れ、「被告は誠実に主張反論を尽くすべきだ」と主張。さらに具体的な事実の立証のために、専門家の取り調べや原告らの本人尋問を実施するよう求めました。

 また、TPPの締結に必要な手続きをどこまで終えているのか、被告に釈明を求めたところ、被告は、「TPP協定の締結は、関係する国内法上の手続きを完了した旨を書面で寄託国であるニュージーランドに通報することによって完了するが、TPP協定に関連する政省令、告示などの整備がされていないため、締結はされていない」(※1)ことを明らかにしました。

※1:日本政府はその後の1月20日、ニュージーランド政府に対して国内手続きが完了したことを通報した。

秘密性を高めることの合理的な理由を説明せよ

 次に、アジア太平洋資料センターの内田聖子氏が原告として準備書面の陳述を行い、秘密交渉の問題を指摘。「WTO交渉はTPPのような極度の秘密主義ではなかった。以前は教えてくれた情報を、なぜTPPでは教えられないのか。なぜ秘密性を高めなければならないのか。政府は合理的な理由を説明すべきだ」と訴えました。

 また、遺伝子組み換えなど食の安全・安心への懸念について、「少しでも危険性がある食べ物を避けたいと思うのは親として当然。危険性のある食べ物の輸入を推進し、規制緩和を加速させるTPPは、私たちの暮らしや主権を脅かす以外の何ものでもない」と述べました。

tppikenn_010
続いて、政治経済学を専門とする植草一秀氏が、原告として準備書面を陳述。「TPPは、憲法が保障している生命の自由及び幸福追求に対する国民の権利を根底から覆す危険を伴い、国民主権、国家主権を喪失させる重大な問題を内包する」としTPPの違憲性、違法性を正しく判断するよう裁判所に要望しました。

 特に、ISDS条項の発動を通じて国内の法規制や制度が改変されることが予想されるものの、TPP発効時点ではその最終的な姿が特定不可能であることを問題視。「ISDS条項が司法主権を侵害することは明白であり、憲法第76条第1項に違反する」と述べました。

tppikenn_007

規制の整合性、水産業、越境サービス貿易の問題

 次に、弁護団がTPP協定の各章の問題点について陳述。岩月弁護士は第25章「規制の整合性」で「規制影響評価の実施」が求められていることについて、「経済活動に対する政府の規制について厳しい制約を課すものになる」と指摘しました。

 山田正彦弁護団共同代表は、日本の水産業に及ぼす影響として、「農林水産省の試算によれば、水産業及び関連産業の生産額が減少し、産業に従事する人々の生活が著しく苦しくなる」と述べたほか、漁業への補助金の交付が難しくなる懸念がある点に触れ、「日本の小規模の伝統的な沿岸漁業に影響を及ぼす恐れがある」と指摘しました。

 和田聖人弁護士は、第10章「越境サービス貿易」について、「日本政府は、保険サービスや教育、士業の資格などを留保として掲げ、『直ちに国内の法律やシステムに変更はない』としているが、ネガティブリスト方式を採用しているため、この留保で足りているかは、全く確認のしようがない。原告らの人格的、経済的な利益を大きく損なう恐れがある」と述べました。

裁判長、弁論を終結。弁護団は「忌避!」

 この後、裁判長から訴訟の進行について双方の意見が聞かれ、弁護団からは、被告がTPP締結にあたって整備するとしている関連する政省令について、具体的な内容を明らかにするよう被告に求めました。一方、被告からは、「判決するのに熟したと考えている。弁論を終結していただきたい」との意見があったのみでした。

 裁判長は「進行について合議を行う」として一旦、休廷。再開後、裁判長は「原告らが申し出ている証拠についてはいずれも必要性がないと判断して却下したうえで、審議を尽くしたものとして、これで弁論を終結する」と一気に終結させました。

 辻恵弁護士は即座に「忌避(※2)!」と叫び、「今日の経過をちゃんと踏まえるべきだ」(辻弁護士)、「弁論は終結していません!」(田井弁護士)などと求めましたが、時はすでに遅く、弁論は終結してしまいました。裁判長は、「判決の言い渡し期日については追って指定する」と宣言し、閉廷。傍聴席からは、「ひどいな!」「なんだよ!」などと声が上がり、騒然となりました。

※2:裁判官や裁判所書記官に不公正なことをされる恐れがある場合に、当事者から、職務を執行させないようにとの申し立てをすること。

裁判のこの後の流れ(3月末現在)

1月14日 第7回口頭弁論期日 終結
1月18日 東京地裁に忌避申し立て
2月13日 忌避申し立てを却下
2月13日 東京高裁に抗告申し立て
4月(?) 抗告申し立てを却下
4月(?) 東京地裁が判決期日を指定
5月(?) 判決言い渡し(予定)

却下または棄却の判断が下れば、控訴する方針です。

裁判資料

▼原告の書面(PDFファイル)
<10月18日付>
第19準備書面
第20準備書面
第21準備書面
第22準備書面
第23準備書面
第24準備書面
求釈明申立書
調査嘱託申立書
証拠申出書
証拠説明書4
甲B3~60号証

<1月16日付>
更新意見書1
更新意見書2

▼被告の書面(PDFファイル)
<11月8日付>
準備書面(3)
調査嘱託申立てに対する意見書
証拠申出に対する意見書
求釈明に対する回答書

▼TPP交渉差止・違憲訴訟 第7回口頭弁論期日 報告(PDFファイル/28ページ)
法廷でのやりとり、報告集会の詳細を記載しています。
201670116_7th-oral-argument-report